///10.People///
高速を下りた車はのどかな街並みをゆったりと進んでゆく。時刻は午後と夕方の境目。青空の向こうではほんのりと黄色の帯が地平線を覆っていた。
「もういいの?」
「え?」
「インタビュー」
信号が変わりブレーキを踏んだ木村がペットボトル片手にの方を向いた。
「あ。こんなコト聞くと遠回しにプレゼント催促してるみたいか」
ふと己の言動を省みて木村はすぐ苦笑いを浮かべるものの、ぷっと吹き出したにつられて一緒に笑い声をあげた。
「もうすぐ着くからご質問はお早めに。ってな」
は短く返事をして美しい景色、というワケではない住宅街を窓越しに眺めながら今日聞いた話を心の中で指折り数えた。
色、ファッション、食べ物。他にもたくさん教えてもらったけれど彼を理解したと思えるには程遠い。知りたいコトなら本当は山ほどあるのだ。それは目先の――10月10日に関わるところだけではない。
丈の余るカーディガンの袖をは強く握りしめた。
「木村さんは」
「ん?」
どんな人が好きですか?
もしもそう聞けば彼はなんと答えるだろうか。
そんなコトを考えながら手の中にある残り少ないペットボトルの中身をいたずらに揺り動かした。
前に好きだった相手がいると以前風の噂で聞いた。黒髪の綺麗な、笑顔の素敵な。そんな人だって話。今もそんな女性を挙げるのだろうか。自分とは違う見た目で、違う性格の特徴を。
「いいえ、なんでも」
そう言っては蓋を開け中身を飲み干した。空の容器は軽い音を立てて飲み物立てに帰ってゆく。
の中で繰り返して抜け出せない問いは今回も空気に触れぬままひっそりと死んでいくのだった。
2022.10.09