とめどない二人の会話。流れるケニー・ロギンス。それらを乗せてしばらく走り続けていた鉄の箱にサイドブレーキがかかったのは、やや広めの駐車場がある大通り沿いのコンビニだった。
「あっ、涼しい~」
「もう秋だなぁ」
ふわり、スカートを揺らす風に誘われ見上げた空は青く、高い。コンビニの入り口まで歩く途中にくんと伸びをしたが木村へ問いかけた。
「私、こんなふうに風が心地良い季節が一番好きです。春とか秋とか。木村さんはどの季節が好きですか?」
自動ドアをくぐりカゴを手に取った木村は少し考えたそぶりを見せてから口を開いた。
「んー、オレは結構夏嫌いじゃないな。試合が決まっても汗出やすい分、比較的減量楽だしよ」
「そっか。木村さんたちは練習や試合絡みも考えちゃいますよね」
「まあそこんとこ差し引いてもなんだかんだイベント事が多いとワクワクするよな。今年は商店街の手伝いとかであんま夏らしいコトできなかったけど……あ、お菓子とかスキなの入れていいから」
「ありがとうございます」
こじんまりとした店内をぐるりと周って一通りカゴの中へ放り込む。ペットボトルが二本にコーヒーガム、グミ、チョコレート。このくらいにしとくか、とレジに持って行けばキャッシャーの向こうでは「こーんな顔」とは大違いの愛想の良い店員がニコニコと手際良く商品を袋に詰めていった。
「それから、今の時期も好きだよオレ」
カゴの中が袋に収まるのを待つ間、木村が呟いた。
「さっきのハナシ」
「どうしてですか?」
「最近知ったんだよ。誕生日が近くなるとイイコトがあるって」
「と、言いますと……」
言葉のまま受け取れば木村の目当ては誕生日当日ではなく「誕生日に近い日」だと受け取れる。不自然な言い回しに首を傾げたが視線を送った先で男の顔がニヤリと笑みを浮かべた。
会計を終えた木村はレジ袋を手に取り、去り際にの不思議そうな顔を下から覗き込んだ。
「今日みたいに色々気い回して、誰かさんが会いに来てくれるってコトだよ」
「なっ……」
「いやー、役得役得」
「まーたそうやって調子のいいコト言うんですからーっ!」
さっさと建物を後にした広い背中を追いかける赤い頬は残念ながら初秋の風くらいでは冷ませそうにない。