前々から決めていた木村さんへの誕生日プレゼントを買いに行くだけだったハズなのに、いざお店で品物を手に取るとこれまで何度も浮かんでは消した不安がまた膨れ上がるのはどうしてだろうか。「ちょっと考えます」とお決まりのセリフを店員さんへ吐いたが最後、結局家路についた私の手には家を出た時と同じ自分のバッグが一つ握られているだけだった。最寄りの停留所でバスを降りると、夜がすぐそこまで迫った空からピュッと秋風が吹き込んできて、日中の気温に合わせて服装を決めた私には少し肌寒い。
ああ、散々悩んであれにしようって決めてたのに。このまま帰っても良かったけれどもやもやした気分のまま今日の外出を終わらせたくなくて、せめて何かおいしいものでも買って帰ろうと目の前のコンビニへ寄り道することにした。デザートがひしめく一角から新発売のシールが貼られたプリンやシュークリームをいくつか手に取り、ついでにレジでコーヒーも注文する。
男性へのプレゼントってなんでこんなに難しいんだろ。恋人でもないのにお財布やキーケースはやりすぎかなと思うけど、使って無くなるようなものも味気ない。かと言っていつものタオルや練習着じゃ芸がないしやっぱり
「あのさぁ」
「わ!」
プレゼントで頭がいっぱいのところに突如声をかけられ体が跳ねる。気づけばカウンターの奥でしかめっ面の宮田さんがこっちを見ていた。
「それ、ストローで飲むのか?」
そう言われて手元に視線を移すと湯気の立つカップに刺されているストロー。そうだ、寒かったから今日はホットにしたんだった。
「……すいません。ちょっと考え事してまして」
ありがとうございますとお礼も続けて言ったものの私の言い訳なぞさも興味無さそうにそっぽを向く宮田さん。
そういえば前に「宮田はオレと服の好みが似てんだよな」って木村さん言ってたなぁ。性格はちょっと、いや結構違いそうだけど持ち物のセンスは似てるのかもしれない――それならきっと、もらって嬉しいものだって。
「み、宮田さん!ご質問があるんですがっ!」
「断る」
「宮田さんがもらって嬉しいプレゼントって何でしょうか?」
「人の話を聞け」
切れ味鋭い視線と共に凄みのある声で牽制されてぐっと言葉に詰まる。
「勤務中は私語厳禁なんで」
そう言ったが最後、目を閉じた宮田さんにそれ以上取り付くシマはなく、すみません、と一言伝えて外に出ようと私は自動ドアに近づいた。確かに宮田さんは今仕事中なんだから。しかし、通りすがらストローをゴミ箱に捨てたタイミングで静かな店内に第三の声が響いた。
「いいわよ」
振り向けば従業員用のドアからマダムが顔を半分覗かせている。少々派手な装いの彼女はここのコンビニのオーナーさんだ。
「オーナーさん!」
「おハナシしてあげて。一郎くん」
「……チッ」
「だってぇ~私も一郎クンの好きなもの知りたいんですものぉ~~!」
オーナーさんの甲高い悲鳴を合図に二人してもう一度宮田さんの方を見る。大きくため息をついた宮田さんは観念したかのように口を開いた。
「無い」
「そんなぁ」
「が、アンタがあげるなら何でも喜ぶだろうさ。木村さんは」
「そうですかね。…………って!何で木村さんのプレゼントって分かったんですか!!」
(10月10日まであと7日)