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「ちゃんと言えるかなぁ」
誕生日は顔を見ておめでとうが言いたくて、思い切って木村さんに当日の予定を聞いてみたらあれよあれよとお出かけの約束が舞い込んだのが昨日の話。ホントに私でよかったのか気になりつつも、特別な日に過ごす相手として選んでもらえたのは素直に嬉しかったりする。ましてや、それが片想いの相手なら尚更。
木村さんには絶対良い誕生日を過ごしてもらいたい。仕事帰りに意気揚々と雑誌を買いこんで昨日話せなかったレストランやお出かけ先探しに奮闘したのだけれど……調べれば調べるほど何がいいのか分からなくなってしまい、付箋と折り目だらけの雑誌を閉じてベッドに体を投げ出した。ちょっと気分転換しよう。そう思って頭を冷やすべくラジオを付けたのに、ちょうど流れてきた少し前のポップスを聞きながら木村さんこれのB面の方が好きって言ってたなぁとか、結局考えるのは木村さんのコトばっかり。で、そのまま頭の中は最初の悩みへとトンボ帰り。

「トミ子さん、ちょっとご相談が……」
「あら、ちゃんどうしたのぉ?」
もうダメだと救いの手を求めたのはいつものごとくトミ子さん。トミ子さんならセレブなお医者さんが行くようなオシャレなお店を知ってるかもしれない。経緯を説明していくつかお店の名前を教えてもらった。
「ありがとうございます!今度木村さんに相談してみますね」
「頑張って、ちゃん」
もう一度お礼を言いつつ手元のメモを見返すと、馴染みのない言葉の羅列がいくつも連なっていて思わずため息が出る。先ほど教えてもらったお店はオシャレなところなだけあって「リストランテなんとか~」だとかどれも長くて難しい店名ばかりなのだ。
「木村さんにちゃんと言えるかなぁ」
「言うって……まさか、ようやく決心したのね?」
何の気なしに心の声を口にしただけのつもりが、トミ子さんの返答はいやに楽しげだ。胸騒ぎがして一応その意を聞いてみる。
「なにがです?」
「とぼけちゃって。告白よぉ!告白!いいじゃない、誕生日にお付き合いするなんてロマンチックだわ~!」
ほらやっぱり。
「もー!違いますってばーっ!」
「違うの?」
「さっき聞いたお店の名前のハナシですっ!」
そう釘を刺すも、なお私に告白させたがるトミ子さんの言葉は続く。
「でもね、ちゃん。向こうだってその気がない子と二人で誕生日過ごそうなんて考えないわよ」
「それは、憶測でしかないじゃないですか」

押し問答の末、ようやく終わった電話をテーブルに置いて自分はベッドに突っ伏す。トミ子さんてば、告白告白って簡単に言ってくれるんだから。告白したくない……わけじゃないけれど。木村さんの恋人になりたくないわけでもないけれど!でも誕生日に告白はあまりにリスクが大きすぎる。だって失敗したら木村さんの誕生日まで台無しにしてしまう。そんなのは嫌だ。

(10月10日まであと9日)