「木村さん。来月の10日ってお暇ですか?」
受話器から届いた
ちゃんの言葉に耳を疑った。
「10日?!」
「あっ、予定あるに決まってますよね。すみません」
「いや!ないないないない!全然、何にも」
「……ホントに?」
「ホントだって」
食い気味に否定すればクスッと控えめな笑い声が電波を通じて耳元で弾ける。実際予定なんていつも通りジムでの練習しかねえし、仮に今後出来たとしても電話口のカワイイ声からお誘いがかかるのならどんな用事だろうが全部後回しだ。
それはつまり「予定は無い」ってコト。
「よかった。あの、10日木村さんお誕生日じゃないですか。当日お祝いしたいなぁって思ってるんですけど、ちょっとだけお時間もらっても大丈夫ですか?」
「ありがとな。もちろんいいぜ……つーかオレとしては「ちょっと」と言わずたくさんもらってってくれると嬉しいんだけど」
そう言うと
ちゃんの笑い声がさっきよりも声を立ててころころと響いた。
「そしたら、んーと、夕方は練習あるでしょうし……木村さんが良ければお昼間、どこかお出かけしませんか?」
「おっ、いいねえ」
「決まりですね」
そうなると行き先だとか時間だとか話したいコトが湧いて出てくるが、ふと目に入った時計の針は思っていたよりもずいぶん進んでいて。それは今度話そうと、次の電話の予定だけ軽く決めて今日は切ることにした。
「おやすみ。
ちゃん」
「おやすみなさい」
「っしゃあああ!!!」
ちゃんのコト気になり始めた頃はずっとオレから誘ってばかりだったのに、今や向こうから「お出かけしませんか?」だとよ――まあ多少誘導はした気もするが――何にせよ着実に仲良くなれてんのは確かだ。今年の誕生日は
ちゃんと、デート。かぁ。付き合ってるワケじゃねえけど……いや、これはデートだ。誕生日くらいそう思わせてくれ!
(10月10日まであと10日)