今日ばかりは書類を持ってなにか言いたそうな上司も長いおしゃべりのパートのおばちゃんもひらりとかわしていの一番にタイムカードを切る。職場から真っ直ぐ家に帰った後は明日に向けてクローゼットを引っかき回し、アクセサリーボックスとにらめっこに明け暮れていた。
チクタク。今や動き回る細い針があと何周かすれば時計の針は全ててっぺんで重なってしまう。そんな時に私がこれからしようとしているのは誰かのため、という思想の皮を被った私利私欲の行動である。だって明日会えるってもう決まっているのに、それより早く伝えたいなんてワガママ以外の何物でもないでしょ?
私には久美ちゃんみたいに身内にボクサーもいないし、トミ子さんのようにスタイルがいいワケでもない。真理さんが持ってる専門的な知識も無いし、美人な山口先生がうらやましい。みんなが持っているモノ、私には一つも無くて、それを思うたびにあの人がすごく眩しくて、もっと自信が無くなって。なのにワガママな私はどうしてもこの気持ちを諦めきれないんです。
せめて今だけは、こんな些細なコトでいいからどうか私を一番にさせてください。
受話器を固く握りしめ、呼吸を整えて時計の針が重なるのを見守っていた。
(10月10日まであと1日)