チラリと何かが光った気がした。
走る足を止め、反射的に河原の水辺のほうへ目をやると濃緑の制服に身を包んだ人物が背中を向けて座っている。光ったのは彼のイヤリングが反射したからだったようだ。
私はその姿に見覚えがあった。

「花京院くん」
さん」
二つ隣のクラスの花京院くんとは特に親しかったわけじゃないのになぜだか彼の名前が口を付いて出てしまった。しかも私の声は彼まで届いていたらしく、少々驚いた顔で振り返った花京院くんと目が合う。そのまま去るのもなんだか無視したみたいで心地が悪いので、土手を降りて彼の近くへ歩を進めると、花京院くんは横に置いてあった彼の学生カバンをどけてくれたので空いたスペースに私も腰を下ろした。
「こんなとこ一人でなにしてるの?」
すると彼は困惑したように笑って口を開いた。
「特に、何をしているというわけではありませんが、川を見ていたんです。ほら、ここから見える川は光の反射で緑色っぽくみえるでしょ。僕はこんなキラキラした緑色が好きなんですよ」
なんか変わった人だな。正直そう思ったけれど、視線を追って私も川へ視線を向けるとなるほど、確かに彼の言う通り。
「わ、ほんと。きれいだねぇ」
「ところでさんこそどうしてこんなところへ?」
私はその言葉でここへ来た目的を思い出した。
「そう、花京院くん。私ツチノコを見たのよ!」
「ツチノコ?」
「本当よ。一瞬だったからよくは見えなかったけど……緑色で蛇みたいなのがこっちの方に来たのを見たんだから!」
そう言うと彼は目をぱちくりさせて、それからぷっと吹き出すように笑った。
その笑みに嫌味はなかったけれど私が知らない事を彼は知っていて、それで私が滑稽に見えるといった風で若干腑に落ちない気分になる。
「ツチノコ、ですか」
彼はかみしめるようにゆっくりと反芻する。
「信じてないでしょ」
「いえ、そういうわけじゃ……不快にさせてしまったなら謝ります」
「別にそんな大層なことじゃないわよ」
「帰るんですか」
すぐに立ち上がった私を見上げて彼は問うた。
「ん、ツチノコ見失っちゃったし。ジャマしてごめんね」
さよならの合図に手をひらひらと振ってみる。

「また」

ふいに、優しいテノールの声が風に乗って聞こえてきた。

「またここに来てくれますか」
「ええ、ツチノコを捕まえたら花京院くんのところへ一番に見せに来るわ」
そう振り向いて言うと彼は冷静で落ち着き払った普段の表情からは想像出来ないような
とびきりチャーミングな笑顔を私に向けた。

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