「やばい!やばいやばいやばい!!」
今日も綺麗に髪を巻くのを諦め、丁寧なグラデーションリップも諦め、いつものまとめ髪とコーラルピンクの定番リップで慌てて支度を済ませマンションを飛び出した。
チラチラ時計を確認しながらバス停の前にあるいつものコンビニに立ち寄る。さて、今日はどっちかな。レジを見やると昨日と同じ無愛想なお兄さんがつまらなさそうに立っていて心の中でがっくり肩を落とした。
全国チェーンのコンビニと違い、個人経営のようなここのコンビニは(少なくとも私が行く時間は)店員が二人いる。一人は派手なマダムで多分店長さん。そしてもう一人は今レジに立っている男の人だ。レジに立っているのがどちらかで朝の星占いよりも信憑性のない一日の運試しを密かに行うのが出勤前の日課になっているけれど、どちらが「当たり」かと言われれば……うーん。マダムは接客が丁寧だけれど急いでいる朝にはちょっともどかしいし、男の人はとにかく毎回塩対応がすぎる。まあ愛想が良いだけマダムの方が嬉しいかもしれない。
「ブレンドコーヒーS、一つください」
「……くえんです」
くえんて何よ、くえんて。100円です、でしょうが。今朝はなんだか虫の居所が悪くて無性に腹が立ってきた。一万円札でも出してやろうか。いやいや、そんなことしたって結局急いでいる私が時間を食うだけだ。
「ご丁寧にありがとーございます!」
とにかくなにか言ってやりたくてカップを受け取りざまにお礼を口にする。これは皮肉よ、伝わってるかしら?そう言葉にする代わりに店員さんの顔を覗き見ると、さらりと揺れる前髪の奥で面食らったように大きく見開かれた切れ長の瞳は思いの外整っていて、悔しいことに冷水をかけられたみたいに怒りが鎮火されてしまった。
→NEXT TIME→