先輩との再会は意外にもすぐ訪れた。
「あ、幕之内くん今日当番?」
「せっ……先輩?!」
「久しぶりぃ~」
夏服から冬服へ衣替えが終わった頃、突然図書室に現れたのだ。聞けば塾や補講もない木曜日は受験勉強を図書室でしているらしい。
「家だと誘惑が多くて勉強したくなくなっちゃうのよ」
そんな苦笑いを見た次の木曜日、ボクの足は放課後図書室へと向いていた。もちろん今日は委員会の当番じゃない。棚に並ぶ本には目もくれずうろうろ辺りを見回していると、いた。窓際の机に座る先輩は渋い顔でノートにペンを滑らせている。
「先輩」
と、喉から出かかった一言をはたと気付いて飲み込んだ。
声をかけて、それで……どうする?
「今度鷹村さんの試合を観に行くんですよ」などとのんきに世間話でもするつもりか。ボクが立ち尽くしている間にも先輩は真剣な表情で赤本をめくっていて、ただ浮かれて会いに行こうとした自分がものすごく恥ずかしくなった。気づかれないうちに帰ろう。そう思ったけれど、どこまでも鈍臭いボクは踵を返した瞬間カバンを長机にひっかけてしまった。思わぬ感触と共に机の上に積んであったパイプ椅子が音を立てて崩れてゆく。驚いてはっと顔を上げた先輩はボクの顔を見て不思議そうに小首をかしげた。
「ボ、ボクも、宿題やろうかな……と思いまして」
自分でも呆れるほどの不自然でぎこちない話しぶり。これがジムでなら会長や鷹村さんにすぐさま怒鳴られていたに違いない。しかし先輩はにこっと微笑み、自分の隣の席の椅子を引いて言った。
「ココ座る?」
ボクはそれ以来、木曜日だけは図書室で宿題を終えてからジムへ通うようになった。

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