あれはもう何年も前のことだ。
ハンター試験に合格して、念を覚えてからしばらく。少しずつハンターとしての仕事が軌道に乗ってきた私は初めて受けた長期任務を終え、あの頃恋人だったレオリオと共に住む部屋へ3ヶ月ぶりに帰ってきたばかりだった。
"ゴンが入院してる"
と、病院名だけが送られてきた、キルアからの突然のメール。
詳細を聞こうと電話をかけてもずっと話し中。クラピカなら何か知ってるかな?と次にかけてみても相変わらず出ない。
まさかテレビを騒がせていた東ゴルトー共和国のニュースと関係があるとも知らず、わけの分からないままお見舞いに向かった先で変わり果てたゴンの姿を見た瞬間、立っていられなかったのを今も鮮明に覚えている。
それからはてんやわんやで、息子の一大事に顔も見せに来ないゴンの父親・ジンさんに抗議するため出向いたハンター協会本部でレオリオがジンさんに鉄拳制裁を食らわせたり、それでなぜか会長候補に最後まで残ったりなどしたわけだ。
結局キルアのおかげで無事ゴンは元気になって、レオリオもなんとか当選回避したから良かったんだけれど……。
「ねえ、レオリオ」
「どうした?
」
「今はゴンがいるから深くは聞かないけど。さっきの主張演説で私、聞きたいことがある」
レオリオと、私と、元気になったゴンの1票はパリストンさんに投票して選挙会場を出た直後。本部の廊下でレオリオにそう告げると彼は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「いやーアレだろ?ズリセンのくだりは緊張してつい……」
「や、そこじゃなくって」
レオリオの演説はお世辞抜きにすごくよかった。型破りながらどの言葉にも心の温かさが滲んでいて、拍手喝采だったのも納得……だけれど、私にはどうしても拍手で済ませられない点が一つだけあったのだ。
演説の途中でレオリオはなんて言ったっけ?
ゴンが誰かのために戦っている間、自分は『勉強して』『酒飲んで』『部屋変えて』『ズリセンこいて』 それから――
「女連れ込んで……ってどーゆーこと!?」
そりゃあ引っかかるよね?説明義務あるよね?だってあの時、私レオリオの彼女だったもん!
「そ、れはそのー」
「あとでしっかり説明してもらうからね!レオリオ!!」
あからさまに動揺するレオリオを見上げたゴンも困り顔だ。
「……レオリオ。何したのさ」
「まてまて落ち着け
。違う。浮気じゃなくて……で、デリヘルを、呼んだだけで……」
「はぁ?」
「1回だけだ!それ以降は誓って無ェ!」
慌てふためく様子と口ぶりから、ろくでもないことだったのは察しがついた。 それでも一応、確認する。
「デリヘルって何?!」
すると選挙会場の大扉がバーンと開いて、ジンさんが両手に大乱闘の成果を抱え込みながら顔を出した。
「教えてやろうか
」
かくして私はあの日、不本意ながら『デリヘル』という言葉と意味を知ってしまったのだ。
「バカアホスケベ!!浮気じゃん!!」
「本当に悪かった!でも信じてくれ、本番はしてねェ!マジで!それに元はゼパイルの野郎がお前とそっくりのデリ嬢を見たっつーから……」
「だ・か・ら・な・ん・な・の?!」
「
ちゃん!一回話し合おう、な?」
ゴンの無事を知って流し尽くしたはずの涙が次々とまた溢れてくる。
「……何を話し合えっていうの」
腹が立って、悲しくて、悔しくて。今すぐ別れてやる!って言ってやりたかったのに。
「わたし……」
だけどその一言は、涙とは打って変わりどうしても口から出てこなかった。
「私、実家に帰らせていただきます!!」
もう何もかもがいやになって、レオリオとゴンを置いてその日は一目散に協会本部を飛び出したのだった。
ま、私は理解ある彼女だったので?みっちり1週間泣いたり怒ったりした後、3ヶ月と1週間ぶりに家のソファーへ座ってレオリオとの話し合いに応じた末
「もし次に浮気したら即提出する!!提出したうえで!訴えて慰謝料ふんだくってやる!!」
……という流れで婚姻届を突き付け、書かせ、この件は水と涙に流してやったのだけれど。
懐かしいなぁ。
あの時は本当に婚姻届を出す日が訪れるなんて想像もつかなかったよね。
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