一か月前と同じ場所。
チャリ置き場の雨よけの柱。
あくびをしながらそこに寄っかかっていた
はオレに気付くと手をぶんぶんと振り回した。
片手で応えた後、近付く隙にカバンのファスナーを密かに開けておく。それから残り数歩のところで17年間一度も持ち歩いたことないようなファンシー柄の包みを中から取り出し、目の前へ突きつけた。
校門をくぐって緩い下り坂を
と並んで歩く。下りた先に待つのは星が出始めた空と海。その一歩手前にある低い建物が学校から一番近い駅だ。電車通してるやつはみんなこの駅を使う。
もここから電車に乗って帰っていく。
学校から駅まではチャリを押しながらノロノロ歩いてもせいぜい5分程で着いてしまうけれど、その数分が欲しくてホワイトデーを理由に
を放課後まで待たせたのはオレだった。
「うわーっかわいーカンカン!中はチョコ?アメちゃん?今開けたら落っことしちゃうかなぁ」
「落とす落とす。ぜってー落とす」
お菓子の缶を耳元で振っている
は言ってるそばから手を滑らせあっと小さく悲鳴を上げた。
「お前なぁ~!」
「ごっ……ごめん……」
かろうじて腹のあたりで腕に引っかかったお菓子の缶はセーラー服のすそで丁寧にほこりが払われる。やっぱり帰ってから開けよーっと。取り繕ったように大きな独り言をつぶやいて
は手首にかけた袋を大きく開いた。
「あ、えまって、なんかもういっこ入ってる!」
やっと見つけたか。
オレが無理やりカバンに詰めて持ってきたせいで皺だらけになったファンシー柄の外袋。店の方が用意したくせに中身と大きさがアンバランスで、立ち止まった
が深々と手を突っ込めるくらいにデカい。だから奥の方は缶の影になって気が付かなかったんだろう。
「あーっ!ポコ太だぁ!」
底に沈んだもう一つのプレゼント、小さなぬいぐるみを拾い上げて
が飛び跳ねた。
「しかも新作の!これ、カワイくて次お小遣い入ったら買おうと思ってたんだよね!私言ったことなかったハズなのに……越野君ってもしかしてエスパー?!すごいすごい!!」
「分かったから全部声に出すなって!」
自分のあげたプレゼントで大はしゃぎされるのは嬉しいけど結構恥ずい。わざと
を置いていくように早足で歩き直したら後ろから慌てて追いかけてきた。
「待ってよ!びっくりしたの。欲しかったやつだったし、それに2つももらえるなんて思ってなかったから!」
「だって2個もらっただろ。チョコ」
バレンタインの日、
は学校に袋いっぱいチョコを持ってきていた。もしその中に他の男子宛てがあるんならそいつのツラ拝んでやる!と思って探りを入れたら相手は女子ばっかりだったし、流れで多分
にとって想定外だっただろうチョコまでもらってしまった。
「だから2つ分入れといたんだよ。それだけ」
「そういうことかぁ~。もしかして私のお返しだけ特別バージョンなのかなって思ったのに」
「特別も何もバレンタイン、お前からしかもらってねーんだけど」
一応言っておくが受け取ってないだけで渡されなかったわけじゃない。だけど去年のバレンタインにオレへ回ってきたチョコの大半は「センドーくんに渡してください」だったし、だいたい好きでもない女子からもらったところでお返ししなきゃいけないことを考えたらめんどくせーなってことに気付いて最初から全部断っただけ。
とか理由を聞かれた時の言い訳は頭の中でたっぷり用意していたけれど、
は丸い目でこっちを見てからそうなんだ、と言ったきり何も聞いてこなかった。
そうこうしているうちに海は目前まで迫ってくる。
ちょうど駅のそばへ差し掛かったあたりで遮断機が点滅を始めた。後ろからは慌ただしい靴音がまばらに近づいてきて、女バスの1年とかバレー部のやつらが走ってオレ達を追い抜いていった。
「電車来るんじゃねーか?」
「んー……次のに乗るから大丈夫」
ちょっと走れば間に合うのに。って仙道や福田だったら背中を押したと思う。でも
には絶対言わない。間に合ってほしくないから。
「ドラマとか、見逃しても知らねーぞ」
「ちゃんと録画してあるもん」
「あっそ」
適当なところで端に寄せたチャリのスタンドを下ろして低い石垣にもたれかかる。
「次まで待つんだろ。話そうぜ」
不思議そうにこっちを見ていた
はにこっと笑って同じように隣で石垣に寄り掛かった。
「越野君、お返しありがとう。私の好きなもの選んでくれて嬉しかったよ」
オレはずっとバスケが楽しくてバスケが日常の中心で。2年前、県内でもバスケが強いと評判の陵南に合格した時も、この先当然そうなるものだと信じて疑わなかった。
だから
に出会わなければ知らなかったと思う。
「越野君は……『友達』思いだよね」
こんなふうに言われて「悔しい」と思う自分は。
友達でいるには熱すぎて
2024/03/24