「明日から1週間、遠征が入っちゃったんだわいや」
「そっかぁ」
「すまんっちゃ、
ちゃん」
「トットリくんが謝ることないよ。気をつけてね」
半ば儀式的に続いてきた2人で過ごすあの日さえも地盤がぐらつき始めた。ガンマ団の総帥が代わると共に団の体制自体も大きく変わったらしく、トットリくんは以前にも増して忙しくなった。職場が違う私たちは純粋に顔を合わせる時間も減ってしまっていてやっと手に入れたトットリくんとの会話の中でも私の知らない人の名前がたくさん出てくるようになり、いつしか私の前に立つトットリくんが自分の全く知らないトットリくんになってしまったように思える時さえある。
トットリくんとはそれなりに長い時を一緒にすごしてきた。二人で寄り添っていた時間だけお互い歳を重ね、成長しているのだからいつまでも子供の時のままのような生活ができるわけない。そう分かっていても不安や寂しさに蝕まれる胸の痛みは事実。
「あ、でも6日目の夜に向こうを出発予定っちゃから7日目は午前中にはこっちに着くと思うわいや!やし」
でも。
「『お弁当の用意』、でしょ?」
「な、なしてわかっただらぁか?」
「だって。今年まだ行ってなかったもんね」
「デザートは、絶対ニ十世紀梨でお願いだっちゃよ!」
「分かってるよー」
付き合いたての頃、トットリくんが初めて誘ってくれたお花見。いつのまにか雪が解け、山が淡い薄紅色のパッチワークを紡ぐようになると二人で町はずれの小さな丘へお弁当を持って桜を見に行くのが暗黙の習慣となっていた。毎年この時期になると私に向けられる「お願い」とその優しい笑顔は今も、昔も、これから先も、変わることはないのだろう。
トットリくんの携帯が震える。
「うわっちゃ!もうこんな時間だらぁか?!」
「なんかあるの?」
「明日のことでシンタローから呼ばれとるんだわいや……遅刻だっちゃああ!」
「もー何やってんのよ!急いで急いで!!」
「う、うん。行ってく」
「ちょ、待ってトットリくん!この明らかに大事そうな書類ファイルは?!」
「あ!それ要るっちゃー!取ってくんさるかー?!」
「やっぱ要るのね!」
「行ってきます」
きっと私とトットリくんは、私の身長の半分とトットリくんの身長の半分を足した距離にいるんだと思う。片方だけがどれだけ手を伸ばしたって触れることは出来ないけど、トットリくんも私も一緒に手を伸ばせば、いとも簡単に温もりは感じあえるのだ。
今、彼の地を知る
2010/04/01 2020/11/08加筆修正