がアラシヤマからストーカー行為を受けて1週間と2日経った日、仕事が終わった後にトットリは突然の部屋へやってきた。
「あれ?どうしたのトットリくん」
「あー、前にちゃんが言ってた期間限定の紫芋とブルーベリーのクリームチーズパイ、たまたま見つけて買っちゃったから一緒に食べようと思って。急に来てごめんっちゃ」
「ううんありがとう!覚えててくれてたんだ!!散らかってるけど上がって上がって」
が中へ招き入れるとトットリは慣れた様子で中へ入り、リビングの小さなソファにぽんと腰を下ろした。ほどなくしてはパイを乗せたお皿と共に紅茶が入ったカップを持ってくる。トットリの分を彼に渡すと、自分の分を持ってトットリに寄りかかるように隣へ座った。
「なぁちゃん」
パイをすっかり食べ終わり、適当につけたバラエティ番組を見ながら話していた時トットリは隣にいるに向き直り声をかけた。改まった言い方、というわけではないが、 はさっきまでのどうでもいい話と同じではないことは感づいた。
「最近、なんか変わった事とかないっちゃ?」
すぐさまアラシヤマの件がの頭をよぎる。グンマに言われた言葉を思い出し喉元まで声が出かかるが、無表情でじっと自分を見るトットリを見つめ返すと目の前にいる大好きな彼に、彼の同僚の失態を告げなければいけない背徳感がどこからともなくあふれ出し、はまたも言葉に出すことができなかった。
「なんで?ないよ」
「……へぇ」
するとの返答を聞くなりみるみるうちにトットリの顔が不機嫌になる。トットリは顔を背けるようにゴロンと横になり、のひざに頭を乗せた。
ちゃん、このごろグンマ博士と仲良いみたいっちゃねー」
「ん?」
「最近開発課のとこ行っとる姿よぉ見るだわや。ミヤギくんもグンマ博士とちゃんが一緒におるのよく見るって言ってたっちゃ」
「あ、あぁ最近色々相談聞いてもらってるから」
ぴくっとトットリが動く。
「相談、ねぇ。僕に言えんことでもグンマ博士には言えるっちゃかー。ふーん」
そっぽを向いたままとは絶対目を合わさずに淡々と話すトットリ。ここではトットリが何を考えていたのか、そして今日なぜ突然やってきたのかをやっと理解した。
「グンちゃんとはただの友達だし何でもないよ。スネてるの?」
「スネてなんてないっちゃ。ただちゃんは彼氏の僕よりただの友達のグンマ博士の方が頼りにしてるんかーって思っただけだっちゃわいや」
「……分かった、グンちゃんに話した相談話す。怒らないで聞いてね」
トットリの取り付く島がない様子に困るのもそうだがこのままではあらぬ誤解まで生んでしまう。はようやく一部始終をトットリに告げることを決めた。

「あははは!そげなことで怒らないっちゃよ!」
が蚊の鳴くような声で今までの事を話すとトットリはぽかんとした表情を一瞬だけ見せ、その後すぐに大きな声を上げて笑い出した。腹を抱えて笑うトットリと対照的には不安そうな顔でおろおろと落ち着かない様子を見せる。
「で、でもトットリくんの同僚で友達だからこんな悪口みたいなこと言っちゃいけないと思って」
「アイツは友達でもなんでもないわいや。そっかぁ、あの野郎がそんなことをねぇ。アラシヤマは僕が何とかするからもう大丈夫だっちゃ」
「うん、ありがとう」
がトットリの腰のあたりに抱きつくと、上から包むように抱きしめられる。ついさっきまでの様子がウソみたいに穏やかな表情で頬をすりよせるトットリはふぅ、と小さく息を吐いた。
「実は僕、てっきりちゃんをグンマ博士に取られたかと思ったっちゃ。杞憂でホントによかっただわいやー」
トットリの唇がの額へそっと触れた。

そして次の日。は本部でデスクワークをこなしていたところ、ふと誰かに見られているような神経がヒリヒリする感覚に襲われた。廊下の方を見やると予想は的中。窓越しにアラシヤマがしゃがんでこちらを見ている。視線がぶつかるとアラシヤマは顔を赤らめながらにピースサインを向けた。すげなく無視することもできずもひきつった笑顔でいつものように手を振るがその時アラシヤマの後ろにさっと別の影が現れた。
「こげなとこでなにしとるだらぁか、アラシヤマ!」
「な、なんですのん忍者はん」
突然降ってきた怒号にアラシヤマはビクッと肩を震わせて声の主、トットリへ体を向けた。トットリはしゃがんでいるアラシヤマを仁王立ちで睨みつけた。
ちゃんは僕の彼女っちゃ、アラシヤマは気安く近づかんで欲しいっちゃね!」
するとアラシヤマは表情を変え立ち上がり、同じようにトットリを睨みつける。
「わてははんの友達として親睦を深めてるだけどす!いくらはんと付き合ぉてる言うてはんの交友関係まで口出しするのは感心せぇへんどすえ?」
「お前はちゃんの友達でも何でもないだっちゃわいや!大体親睦って、お前がしんさるんはただのストーカー行為だらぁ、 ちゃんが気持ち悪がっとるから早よどっか消えろっちゃ!!」
「な、なんどすってぇ?!はんがわてに心変わりするのが不安やからってそないな嘘つかはるとは姑息でっせ!ガキんちょ忍者!!」
「ちょ、ちょっと二人とも……!」
二人の言い合いは徐々にエスカレートしていき廊下どころかフロア全体に聞こえるような大声でどなり始めた。 が慌てて止めに入るが二人の耳には全く入っていない。
「なにをぉぉぉ!ちゃんがお前みたいなキモい根暗好きになるわけないだわな!!!」
「あんさんみたいなオチビはんよりずっとわての方がお似合いやと思いますけどなぁ!!!!」
「こんのぉぉおお!!アラシヤマ表に出るっちゃ!!!!」
「望むところどす!決着つけまひょ!!!」
バタバタと嵐のように二人が過ぎ去ったあと、その場にいた人間の視線は渦中である一点に注がれ、は凍りついた。まだ二人の言い合う声が響く廊下と固まるを交互に見て面白そうにのうのうと笑う男が数名。
「ね?僕の言う通りだったでしょー?」
「おぅおぅ、モテモテじゃのぅ、
「あげにキレるトットリはベストフレンドのおらでもそうそう見れるもんじゃねーべ?」
「見てたなら止めてください」
嗚呼、今日もガンマ団は平和です。
SWEET DIZZY LIFE
2010/06/08 2020/11/08加筆修正