「ねえどこに連れてってくれるの?パプワくん」
「はははっ、まだないしょだぞー」
「……ロタくぅ~ん」
先頭に立って私の左手をぐいぐい引っ張っていくパプワくんに行き先を問うがとりつくしまもなく、隣で私の右手をつなぐロタくんに標的を変え救いの目を向けるが、ロタくんも申し訳なさそうに私から視線をずらした。
「今はまだ内緒だよ。でも、さんならきっと気に入ってくれると思う!」
「気に入る?」
「わうわうわうーん!」
私の質問はチャッピーが吠える声にかき消されてしまう。頭の上に乗っていたチャッピーはぴょん、と飛び降り勢いよく走り出した。後を追って私の両手はさらに強く引っ張られる。
「着いたぞーー!」
「早く早くぅ!」
「うわっ、ちょっと待ってよ~」

昼食にリキッドさん特製のオムライスをお腹いっぱい食べて、台所からリズミカルに響く食器を片づける音とパプワハウスの窓から絶妙に差し込む日差しも手伝いとろとろまどろんでいた静かな昼下がりに突然ついてこい、と元気なちみっこたちに手をひかれ訳も分からず数十分。微かに痛みだす脇腹を押さえながら、走り出す彼らに遅れないよう私も必死に走った。
「見て見て!さん!」
「うわぁ……」
緩やかな坂を登り切ると、目に飛び込んだのははちみつの瓶をひっくり返したような一面の黄金色に染まる平地。目を凝らすとその一つ一つは大空に向かって輝く大輪の花、ひまわりだった。両端からつながれた手をちょちょいと引っ張られ、わくわくした表情でちみっこたちがこちらを見ていた。
「ねね、さんどーお?すごいでしょ?!」
「この前ロタローとチャッピーと遊んでるときに見つけたんだ」
さんお花大好きだから、きっと見せたら喜ぶなって言ってたんだ。ね、パプワくん」
「うん。だからぜったいに見せたかったんだ。でもチャッピーが行き先は内緒にして驚かせようって」
「わうわうっ!」
穢れのない瞳から期待のまなざしが一点に注がれる。口々に話すちみっこたちの笑顔はひまわりと同じようにキラキラと輝いていて胸の内がぽかぽかと温かくなる。自分の意思とは無関係に顔がふにゃりと崩れてゆくのが分かった。
「すっごく綺麗!ありがとね、みんな」
それぞれの頭を撫でてお礼を言うとちみっこたちはお互い顔を見合わせる。
「やったぁ!大成功だね!」
「うん、だいせーこー!」
「わうーん!」
こりゃシンタローさんが溺愛するわけだわ。

子供とは本当に元気な生き物である。私をここに連れてくるなり2人と1匹は一目散に金色の海へ飛び込んでいった。彼らについて行ける自信など全くない私はケガしないように、と声だけかけて手頃なところに腰を下ろし、彼らが動く度に揺れるひまわりをゆるりと眺めていた。
「おーい!ー!!」
ふいに名前を呼ばれた。声の聞こえた方へ顔を向けるとひまわり畑の中からパプワくんがスタスタと駆け寄ってくる。豪快にも引っこ抜いてきたのだろうか、パプワくんの手には自分よりずっと背の高いひまわりが握られ、走るパプワくんと共に根っこの方からぱらぱらと土が落ちている。
、プレゼントだ!」
「ありがとう、パプワくん」
私は屈んで、小さな手からそれを受け取るとパプワくんは普段あまり崩すことのないポーカーフェイスをふっと和らげ優しい笑顔を見せるから私もつられて頬が緩んでしまった。
「あああ!パプワくん抜け駆けはずるいよ!」
パプワくんの後から続いてロタくんとチャッピーもやってくる。
「先手必勝だぞ、ロタロー」
「こうしちゃいられないっ、チャッピー、行こう!」
ちみっこたちは一斉にひまわり畑の中へ駆けていくとしばらくしてひまわりを手に、これまた一斉に私のほうへと突っ込んできた。
「どうぞさん!」
「わうわう!」
「ロタローもチャッピーもなかなかやるな!、さっきの10倍返しだぞ!」
我先にとむぎゅむぎゅ押してくる力は妙に強い。
「ありがと、ありがとあんまり押さないで……きゃー!!」
「ああっ!さん!」
!」
「うわうっ!」
何とか平衡を保とうとしたがそれは叶わずぐらりと世界が揺れた。一瞬訳が分からなくなったけれど、背中に当たる草と土の感触がそのまま後ろに倒れこんでいったことを物語っていた。ああ、酷く眩しい。目を閉じても真っ赤に見えるほどの光から逃れようとして手の隙間からゆっくり目を開ける。そこには雲ひとつない空を背景に、6つの心配そうな瞳が私を見ていた。
「大丈夫か?
「くぅ~ん」
さんごめんなさい……」
むくっと体を起こすと、しゅんとした3つの顔がみんなそれぞれ同じだったから私はなんだかおかしくなって、一人、声をあげて笑った。
「だいじょうぶよ。みんなありがとう!」
落としてしまったひまわりをきっちり拾うと、今日一番のとびっきりな笑顔たちが応えてくれた。
EARLY SUMMER
2010/06/01 2020/11/08加筆修正