「あら。今回はなかなか愛嬌のある機体ですね、大尉」
「随分腕を買われたもんだ……こんな骨董品、どっから引っ張ってきたのやら」
命令の下るまま乗り込んだムサイ改級で彼らを待っていたのは肩を並べた型遅れのザクIIが2機。宇宙世紀0090年代も半ばを過ぎた今、最前線で命を預けるには心許ない機体だと誰の目にも明らかだった。
「モナハン大臣へ連絡しますか?」
「まぁ、たまには指揮官殿のイタズラに付き合ってやるのもいいか」
の問いかけを受けて、ザクを見上げるゾルタンの口元に小さな笑みが浮かんだ。
彼らの生い立ちに嫌悪感を抱き、あえて型遅れの機体を押し付けることで侮辱を示す上官はこれが初めてではない。
「シャア再生計画」の失敗作と、失敗作に飼われる“首輪付き”。役立たずだ出来損ないだと後ろ指を指され、使い捨ての任務に送られ続ける二人。
しかしそれを幾度も実力で覆してきた確固たる自信が彼の薄い唇に宿っていた。
「お前もやれんだろ?なぁ
」
「ええ、もちろんです」
呼応するようにプラム色の口紅もまた、ゾルタンの隣で軽く綻んだ。
「どんな機体でも構いません。大尉、貴方のご命令なら」
「いい子だ」
静かに、密やかに。
格納庫の片隅にて2つの呼吸が束の間、重なったのだった。
ザクの日SS
2025/04/26