飴色に輝くつぶつぶがたくさん入った紙袋を手にしていたいけな瞳をこちらに向けるティーンエイジャーが一人。
いや、一亀。
「あの……何?」
「何ってこれはキャラメル味のポップコーンだよ、
ちゃん」
「そうじゃなくてね、マイキー」
「なーに?」
「NYの街を守るのに忙しいはずのヒーローさんは毎日毎日何しに私の部屋まで来るのかなってこと」
「そーれーはー
ちゃんにお菓子を届けるためだよ!」
「マイキーはいつからニンジャから運送屋さんに転職したのかしら」
今日はキャラメルポップコーンらしい。昨日はチーズケーキ、一昨日は確かカップケーキ。ここ最近毎日毎日彼はスイーツを携えて私の部屋の窓を叩く。何をしたいんだ、この橙バンダナの亀様は。
「んーとね、ドナが相手を落とすにはまずは胃袋をつかめ、って言ってたから」
「そ、それなんか違ーう!」
意図的なのか天然なのか足並みを乱すマイキーの返答に思わず気の抜けた声が飛び出してしまった。
「もー、分かってるくせに」
「え?」
「いつも言ってるじゃん。今日も
ちゃんに、オイラのお嫁さんになってくださいって頼みに来たの。それに好きな女の子はいつも楽しませてあげたいっていうのがオトコの心理だよ」
相変わらずのニコニコ顔で言ってのけるから彼の真意が今いち分からない。
正直マイキーは何でも深く考えず簡単に信じるところがあるからドナやラファあたりがなんだかんだとマイキーにふきこんで私の事をからかってるだけかもしれないし、第一期待しているのが自分だけだったらすごく恥ずかしいのでマイキーのこういう言葉は聞き流すようにしている。
「はいはい、そうなのねー」
「もー!ごまかさないで!あっ、もしかして
ちゃんはレオみたくカタブツな感じがお好み?こーみえてオイラ結構シッカリしてるんだよねー!知ってた?だから安心して?」
「別にそうは言ってないけど……」
「ほんと?よかったー!オイラのお嫁さんになってくれないのかと思ったじゃん」
「えっと、そんなことも言ってないんだけど」
まだまだ口の中に残る抗議の代わりにマイキーが持ってきたポップコーンをぽいと口に放り込んだ。まろやかな甘味とともにキャラメルの香りが鼻からふんわりと抜ける。あ、これかなりおいしい。
「ねえ、マイキー」
「なになに?」
「何でいっつもお菓子を持ってきてくれるの」
「だからドナがー」
「そうじゃなくて……もう、いい加減そういう嘘つくの止めてよね。何かの罰ゲーム?」
「嘘じゃない!!」
突然立ち上がったマイキーを見て愕然とした。
「
ちゃんにいつも言ってるのは嘘でも冗談でもない、全部オイラのほんとの気持ちなのにどうして信じてくれないの?!」
目の前のマイキーは激情を宿した瞳で捕食者のように私を射抜く。
私はこんな彼を見たことがない。
いま、めのまえにいるのはだれ?だれだ?
大きな三本の指が私の手を取る。
二つのアクアブルーがゆっくりと近づいてくる。
カチャリ、と彼のヌンチャクが擦れる音が嫌に耳に届く。
「もう一度言うね、聞いて。
ちゃん、オイラのお嫁さんになってよ」
さっき口に含んだキャラメルポップコーンのように頭の中でぽこぽこ弾けて止まらない、マイキーの言葉が。
むせかえるような香りを纏って波打つ鼓動が甘やかな痺れを残す。
そうだ、彼も同じ男の子じゃないか。レオやラファやドナやケイシーやクラスの男子と同じ。
そう気付いた時にはすでに遅かった。
ポップコーン・ブーギー
2015/02/19 2019/11/04加筆修正