まるで灰色の絵の具を撒いたように低く立ちこめる雲の下を二人は手をつないで歩いていた。

「――ねぇ、トットリくん聞いてる?」

一生懸命何かを話すは隣に居る彼の様子を見て不満の声を漏らした。
「んあ?ああ、聞こえとるっちゃよ、
「もー、『聞こえる』と『聞いてる』は別もんだよ」
「えへへ、すまんっちゃ。で、何ぞ話だらぁか?」
「だーかーらー」

呆れたように二、三言悪態をつくとはまた初めから話し直す。 しばらくすると二人の笑い声が響いた。 取りとめもない話を飽きもせず交わし合う、 それはいつもと変わらぬ風景。変わらぬ暮らし。

その時、どこからともなく吹く風がトットリとの肌を滑り抜けた。

風に誘われるようにトットリは空を仰ぐと、 ハッと何かを思い出したような顔をしてと絡めていた手を解いた。

「ああ、そげだそげだ。僕ぁちぃと寄ってくとこあるわいね」
「ん?そうなんだ。いってらっしゃい」
「うん」
「また明日ね、トットリくん」

『ちょっとタバコを買いに』といった風のトットリへ
が手を振ると、彼は黙って手を振り返した。

代わり映えのしない、夜色の忍装束と血の色をしたマフラーを身に纏って、古びた下駄をカランコロンと鳴らしながらそのままトットリはどこかへと消えてしまい、
二度との前に現れることはなかった。


Gのマークを掲げる大きな飛行船に乗り込んだトットリを出迎えたのはミヤギだった。

「……トットリ、本当にええんだべか?」
「ん、何がだらぁか?ミヤギくん」
「だっておめ、あの娘の事……」

心配そうに自分を見つめる親友へトットリは困ったように眉を下げてにっこりと微笑んだ。

「人の命奪うような男が、人を幸せにはできんさらんわいな。僕みたいなのは……傍におらんほうがええっちゃよ」

まぶたの裏にこびりつくのは、の柔らかい笑顔。 胸の内にどっしりと根を張っている彼女への想いは 目を閉じるたび、確かな苦みと共に血を噴き出す。 しかし、トットリはそれを涙に変える術を知らない。 忍びとしてとうの昔から訓練されてきたことである。
忍者は、泣かない。泣けないのだ。

トットリはスッと目を細めると、抑揚のない声で呟いた。

「さて、そげなことより今回の任務はどこかいなぁ」


知っていた、分かっていたはずだった。自分にとって恋や慕情なんてものは身を苦しめる以外の何物でもないと。いつかは地獄に落ちる定、 想い合っても自分はそれに応える事が出来ないのだ。

それならば君の胸に灯る
ろ ロウソクを吹き消して
君の幸せを願って消えよう

「さようなら」
「愛してるよ、僕の最後のガールフレンド」