「ねえ
、君に聞きたいことがあるんだ」
ルーザーは不意に私へと問いかけた。
士官学校の成績はいつもトップ、研究方面でも数々の功績を残している、まるで聡明を形にしたような彼が何を私に問うというのだろうか。
「なぁに?」
「鳥は、どんな鳥でも生まれて巣を発つだろ?虫も時期が来れば姿を変えたり鳴いたりする。草だっていつかは実や花をつける。彼らはそれが使命なんだ。それこそが生きる理由。
僕は……僕が生きているうちにすべきことってなんだい?正しい生き方が自分でわからないんだよ、
」
そう言ってルーザーはまっすぐ私を見た。そのまなざしは痛いほどに強く、含まれている感情の大きさを感じた私は応えるように同じく視線を合わせる。
「ルーザーは虫でも鳥でもないじゃない。貴方の思うように生きたらいいのよ。人間の生き方に正解も不正解もないと私は思うわ」
「人間の生き方、か」
ルーザーは私の言葉をもう一度繰り返した。
「『人間らしく』生きるには欠落しているものが多すぎるようだね、僕は」
そう呟いてルーザーは口角を上げた。
その笑みの、何と美しくて悲しいことか。
普段から冷静で人見知りの激しい彼はイメージが独り歩きしがちだが彼は遠くを見ているわけではない。一人でいるのが好きなわけでもない。本当は誰よりも温かい部分を持っている。
「ちがうよルーザー。ルーザーはただとてつもなく真っ直ぐで、純粋で、不器用なだけだって私ちゃんと知ってるわ。ねえルーザー、何か寂しいことでもあったの?」
そしたらルーザーは大きく目を見開いて一瞬だけ泣きそうな顔をしてから私を抱きしめ、というよりもたれるといった感じで触れてきた。耳元で息をたっぷり含んだ声が漏れる。
「寂しいってなんで分かったんだい?」
「そうね、色々あるわ。でも手っ取り早く言うと……私がルーザーのことを好きだからよ」
「まったく君はとてもずるい人だ」
だって、愛されたいって弱くなると肝心なことが分からなくなって誰かのぬくもりが欲しくなるのはよくあることだし、とりわけルーザーのことだから自分から太陽に突っ込んで溶けてしまっているんだろう。そして彼は今、溶けて消えたいと思っている。
「ねぇ、
」
「なあに、ルーザー」
僕は君の事を心から愛しているし大切に思っているよ、そう前置きを言ってから
「今から僕の話、聞いてくれないか」
と私に告げた彼の意思はとても固かった。
4日後、彼はEブロックへと向かう飛行船で旅立った。
く 苦しいのはもうたくさん
と嘆いたあなたは、まだ疲れていますか?
どうか身も心も解き放たれて、今は安らかであらんことを。