※単行本131巻収録話のネタ



どうして。どうして。
ほんの少し前までランキング1位だったはずなのに、今最下位にチーム名が書かれているんだろう。
どうして。どうして。
8チーム中6位までに入ってないと次に進めないのに、残り試合が少なくなったところで最下位になっちゃったんだろう。
不安でバクバク鳴っている心臓を少しでも落ち着けようと壁に飾ったサインへすがるように手を合わせてみる。額縁に入れたソレは私が応援しているチームの選手のもので、この前幕之内くんに無理を言ってお願いしたものだ。ボクシング一筋の幕之内くんから「雀荘に行く」と聞いたときはびっくりしたけれど、私の好きなプロ雀士がなんと八木さん、いや、ヤミさんの教え子だったときいて更にびっくり。……まあそれはいいとして
「ドンブリズが最下位なんてありえないんだけど」
「ありえない、なんてねーんだよ、勝負の世界には」
私が平日観ているプロリーグ戦と競技は違えど、同じような境遇に身を置くプロボクサーから返ってきた一言は重い。
「風が吹いてなかろうが配牌やツモに恵まれてなかろうが結果として出ちまってんだからよ。もう条件あるかぎり応援するしかねぇだろ」
「おっしゃる通りです」
「まああと10戦あるし、上のチームと直接対決もあるからしっかりポイント稼げればセミファイナルも行けるだろうよ」
「……そうなんだけど~~!」
「おーよしよし」
彼の言葉は至極真っ当で筋が通っていることは理解できるが、だからと言って「はいそうですか」とテレビのチャンネルみたいに気持ちが切り替えられるわけもなく、オカルト派の私はさすがてんびん座の男は論理的だな、だとか根も葉もない星占いを思い描きながらチームの危機的状況に打ちひしがれる。すると隣でアイスを齧っていたてんびん座の男、木村達也は値引きシールのついた空の寿司パックにピンっとアイスの棒を投げ入れるとこちらににじり寄り、自分の胸へ私の頭を押し付けてきた。恋人じゃなくてぐずるこどもにするようなやつだ。おちゃらけが混じる笑い声と、ぽんぽんと背中に一定の振動を受けながら私はそのまま達也にもたれかかった。
しばらくして額のあたりに感じる唇の感触。顔を上げると次は唇の上に一つ落とされる。毎日私が想像できないくらい走って動いてどこにも無駄なものが付くスキのないように見える体でも、触れる唇はいつだって柔らかくて不思議な気持ちになる。もう一つ、さらにもう一つ。その後おでこを引っ付けて達也と視線を重ねた時、誰も何も言っていないのに次にされるのは「こどもにするようなやつ」じゃないと分かってそっと目を閉じたら、やっぱり次に降ってきたのは丸飲みにされるような深い深いキスだった。ねっとりと侵入してくる熱い舌に対してどうすれば正解なのかいまだに分からないけれど、腕を回して必死に応えると火照った吐息の向こうに険しい目元が見えて、とりあえず間違ってはないんだと自己採点をする。そのままずるずる横たわった先はたいしてふかふかでもないカーペットだったので、服の中を這いずる大きな手を捕まえてベッドでしたいっていうのと電気消したいっていうのを伝えると私に覆いかぶさる影ははいはい、と言いながらどちらも聞いてくれた。

「中継観るなって言う気はねぇけど、たまにはオレにも構ってくれよ。なあ、
すぐそばにある広い肩幅と、皮膚の上をなぞる短い爪と、掠れた低い声と、密着する燃える体温。達也の中指が私の中で曖昧に溶けて体が震える。彼への「ごめんなさい」も「ヤキモチやいてるの?」も何一つ声にならなくて、しがみついて耳元に唇を寄せるしか出来ない私は結局

こ こどもみたいだ

と思った。