SIDE:M
新しい住居は大きくないが二人で住むには十分な広さ。ミヤギの勤務先であるガンマ団本部へも歩いて行ける距離で立地も二重丸。家賃も気になるほど古い物件ではないのにお手頃の値段。いいところが見つかったとミヤギとは上機嫌でその部屋を選んだ。これが幸せいっぱい甘い日々の幕開けだと信じて疑わなかった二人……
しかし、いざ始まる二人の新婚生活は順風満帆とは言えないようである。

「ふぅー、上がったべー」
「おつかれさま。ご飯できたよ」

朝から新居に家具を入れたり荷ほどきをしたりしているうちに一日が過ぎ、あらかた終わったころにはとっくに日は落ちてしまっていた。昼間についた埃をシャワーで流したミヤギがどかっと重そうに椅子へ腰かけたのを見計らっては夕食をテーブルへ運んで行く。

「ミヤギー結局あのアルミラックは使わなさそうかな?」
「おう。後は……タオルの棚を買い足すくれーだべな」
「うん完璧!住むところもすぐ見つかったし家具もそんなに買い足さずに済んだし、うまくいってよかったよね、ミヤギ」

が向けるウキウキとしたまなざしにミヤギは取り繕った笑顔で応えた。

「あー……店が遠いって以外は、な」
「……」

これから住むことになるマンションが「ガンマ団本部のすぐ近くにある」というよりは「ガンマ団の敷地の一角にある」、というニュアンスが正しいような立地であった。あたりは普通の町並みとは程遠く、ガンマ団員や士官学校生の寮が点在しており寮で生活をする好奇心旺盛な少年たちの食指を動かすような店は徹底的に排除されている。
つまり、マンションの周りには繁華街どころか物を売っているところが皆無に等しく
日用品や食品など、普段の生活で必要なものも買いに行くのも難儀なのである。ガンマ団の建物内には団員用の購買スペースがあるが来月に晴れて寿退職するは立ち入ることができなくなる。

「まぁ、他は全然問題ないんだし、買い物くらい私頑張るよ」
「わりぃな。これから頼むべ
「ううん。だってこれからミヤギに養ってもらうんだもん。私だってそのくらいしなきゃ!」

そう言ってふわりとが花のような笑顔を見せるとミヤギの胸にぽっと薔薇色の明かりが灯る。

「……っ、めんこすぎるべ~!」

ミヤギはの体を抱き寄せようと手を伸ばす。
ところがその瞬間、ミヤギのポケットから何かが滑り音を立て落ちた。床に落ちたのはガンマ団のマークが入った小さな紙袋。

「あっ、それ……」

先ほどの花の笑顔から一変しての顔がひきつる。

「あーそうだそうだ。これ脱衣所に落ちてたけどなんだべ?」
「えっと……。あ、開けてみて?」

の様子を不審に思いながらもミヤギは袋を開けたが、中に入っているものを確認してミヤギの疑問は一気に吹っ飛んだ。紙袋の中にはピンクの布地にレースがたっぷりついたドアノブカバーが一つ。ただし真ん中には後ろで一つに結った男の子の……現総帥のデフォルメアップリケがデカデカと存在感を放っている。

「……そういえばマジック様、来週いらっしゃるっておっしゃってたべな」
「うん、折角頂いたものだから仕舞いこんどくのは駄目かなって。どこかに使おうと思って……」
「けどどこさつけるべ?こんなもん」

とたんに重苦しい雰囲気が二人にのしかかる。

「そうだミヤギ!と、トイレにでも付けよ!私付けてくるよ!」
「(トイレって……なかなかひどいべ、……!)」

はミヤギの手からドアノブカバーを奪い取ると乾いた笑いを浮かべながらトイレの方へ早足で駆けて行った。マジックが訪問した後は外して押し入れにでも入れておけばいい。ミヤギはほっと一息ついて、目の前に置かれたの手料理に箸をつけようとしたが

「ミヤギ大変!!!」
「どーしたっぺ!!!」

やはり災難はまだまだ続くようで。

「トイレットペーパーが、ない」
「な、なんだと!」
「そう言えば私、トイレットペーパー買ったばかりでかさばるしお隣さんにあげちゃったんだった」
「おらもトイレットペーパーくらいわざわざ持ってかんでもって思って捨てちまったべ」
「……ね、車出して。ミヤギ」
?オラ今シャワー浴びたばっかだっぺよ?今から買い物なんてごめんだべや!」
「仕方ないじゃん!ミヤギは明日まで絶対トイレしない自信……ある?」

夕食が済むと、重い足取りで車に乗り込む二人であった。


「近くに店がねーっつーのはめんどくせーもんだべな」
「そうかも、ね」
「なあ。やっぱ早いうちに別んとこ引っ越すべ」
「えぇ、折角部屋借りたばっかりなのにー。今は免許取り立てだから夜は運転不安だけど徐々に運転もなれると思うし心配しなくても大丈夫だって」
「けんど……んー、まぁまだしばらくはいいか」
「なによー?」

「オラ今はまだ二人きりがいいけど……そのうち……ほら、な、こ、子供が出来たら……不便だべ?」
「!」
==お帰りは窓をとじて==
2019/10/29 加筆修正