SIDE:K |
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「こんなもんかなぁ……」 はフライパンの火を止めて、中のあんかけ炒めを一口食べてみた。うん、いつも通りの味である。 一味……二味ほど足りないいつもの味。 まずくはないが、決しておいしくもない。それは分かるのだけれども何をどのくらい足せばおいしくなるのか料理を始めて日の浅いには見当がつかなかった。適当に何か入れてみるか、と塩を手に取ってみたもののそうして料理を『まずくはないがおいしくない』から『決定的にまずい』へ進化させた記憶は一度や二度ではない。が頭を抱えてキッチンに立ち尽くしていると、のそのそ後ろから大きな体が近づいてきた。 「……飯はまだか……?」 「ご、ごめんコージ。もうすぐできるからもうちょっとだけ待って!」 が塩を持つ手に力を込めたが、コージは試行錯誤中のフライパンの中身を見るなりぱっと顔をほころばせた。 「なんじゃ、もうできとるじゃありゃせんか。それでええけんはよ食わせぇ」 「待って、それまだ……あっ!」 よほどお腹が空いていたのか、コージはの制止も聞かずフライパンのままテーブルへ運んでしまったのではついに観念して納得いかない味のまま食卓に出すことにした。 「いただきます」 悩みの種であるあんかけ炒めも他の料理とともにテーブルに盛りつけるとしっくりなじんでそれなりに美味しそうに見える。しかし、実際お皿に盛ったからと言って味が変わるわけもなく、があんかけ炒めを口に含むと、先ほどと同じ微妙な味が口の中いっぱいに広がった。コージはそんなことを気にする様子もなく次々と腹の中へ収めているが……。 「コージ……それやっぱり微妙だよね」 耐えかねては消え入りそうな声でコージにつぶやく。 「ん?どれじゃ?」 「このあんかけ炒め。おいしくないでしょ」 自分の皿にあるあんかけ炒めをは箸で指す。するとコージはそれについて言葉を返すわけでもなく料理をを食べるわけでもなくの顔をじっと見た。 「!あーん!」 「な、なに?」 「それ、ぱっくり食うけぇ、はよ食わせぇ」 「でも……」 「ほれ、はよぉ」 目の前で躊躇するに大きな口を開けてコージは催促する。はおそるおそる自分の皿から問題の料理を一口分取ってコージの口に入れてやるともぐもぐと口を動かし、笑顔で答えた。 「そーか?わしにとったらぶちうまいけぇ心配すんな」 しかし晴れ晴れとしたコージの表情と対照的には曇天の如く顔を曇らせている。 「……嘘つき」 「おい、」 「私に気を使って言ってるんでしょ。分かってるんだから」 食べることが誰よりも好きなコージに満足な食事一つ出せない自分がは情けなく思っていた。その上使わないでいい気まで使わせるなんて。発した言葉が自身の胸に深々と突き刺さる。 さっと影が落ちてきたかと思うと大きな手が二人を隔てるテーブルを悠々越えてうなだれるの頭にぽんと乗せられた。コージはふっ、と息を吐いた。 「ぬしがわしのために長いことキッチンに立って作ってくれとぉところをわしはずっと見てたんじゃ。そうして作ってくれた料理がまずいはずないじゃろ?じゃけん、そげな顔せんでくれ」 「コージ……」 視線がかち合うとコージはにかっと屈託のない笑顔を向ける。 もにこっと笑顔で応えた。 「ありがとう。……これからもっと料理の腕あげるから、もうちょっと待ってて」 「おう。時間はたっぷりあるけぇゆっくりすりゃええ。これからはずっと一緒に住むんじゃからな」 |
==お帰りは窓をとじて== 2019/10/29 加筆修正 |