HappyBirthday!:February 12 

鳥取県の人里離れた奥深く。お世辞にも都会とは言えない場所で生まれ育ったのもあってトットリの幼少期は古き良き和の食卓が常だった。その頃には「もっとオシャレなものが食べたい」などとしきりにナイフとフォークをせがんだものだが、人の心とは勝手なものでガンマ団で働きだしあの頃のような家庭料理から遠ざかると妙にその味が懐かしくなるものだ。
そんなトットリの心中を知ってか知らずか、まるで見透かしたかのようにの作る料理は和で構築されていた。特に本部にやってきて以来、暇を見つけては振る舞われる夕飯はカレイの煮付け、胡麻和え、きんぴら、たこときゅうりの酢の物……リクエストがない限り一般の家庭で食べるような和食ばかりが出てくるのだ。
なので今、自分の目の前に置かれた料理を見てトットリは首をひねった。
ふんふんと鼻歌を歌いながらがテーブルのど真ん中に置いたのはスペアリブの盛られた大きな皿。他にはパスタの盛り合わせ、白身魚のカルパッチョ、クラムチャウダースープ。並べられた料理は全て綺麗に盛りつけられており明らかに普段と雰囲気が違っていた。

「トットリくんおまたせー!ごはんできたよー!」

最後にトン、とエビのワイン蒸しを置くとはトットリに声をかけた。

これ……」
「ん?なに?」
「……ううん、なんでもないっちゃ。いただきまーす」

歯切れの悪い返答は少し引っかかるもののトットリがスペアリブに手を伸ばすとも席についた。

「トットリくんパスタ食べる?取ろうか?」
「あー、お願いするっちゃー」
「スープ、おかわりあるから言ってね」
「んー」
「あ、ねね、今日ビールも買ってあるよ!明日休みでしょ?たまには飲む?ワインも一応用意してあるんだけどそのお肉にはやっぱビール?って思ってね」

いつもに増して甲斐甲斐しいのは料理だけではなかった。トットリがスペアリブの骨をよけて食べるのに悪戦苦闘している間にもはトットリにあれこれと世話を焼いてくる。隠しごとや、何か後ろめたいことがあるのだろうか?普段から気立ての良いほうだと思うが、本日あまりのVIP対応に良からぬ想像がトットリの胸の内にそろりと忍び寄る。


、今日なんぞいいことでもあったんだらぁか?」
「え?!」

思い切って疑問を口に出してみるとくるくるとパスタを巻いていたのフォークがぴたりと止まる。明らかに動揺したの様子はトットリの不安を更に煽ったが、次に紡がれた言葉は彼にとって予想外の返答だった。

「何言ってるの?今日、トットリくんの誕生日じゃない!」

ああ、なるほど。

「そっかー、……そげだらぁね」
「もしかして、忘れてた?」
「んー。っていうか、本当の誕生日、人に言ったことあんまりなかっただっちゃからねー」

物心ついたときから誕生日に祝われた記憶がトットリにはなかった。というのも忍びとして身辺の偽りは小さいころから叩き込まれていたので任務の妨げにならぬよう普段から個人情報はなるべく人に告げないようにしていたからだ。
自分が生まれたことを誰かが祝ってくれる。少しくすぐったい気もするけれどとても幸せなことだ。そんなことさえ今まで気付けなかった。この料理も、気回しも、自分のためだったのかと、そう思った途端、トットリの中に芽生えたのはヒリヒリとした痛みだった。しかし、それはなぜだかほっとする痛みであった。それが寂しいことだと知らなかった今までの方が、もっと悲しい。

「私、今日祝って良かった?」
「当たり前だっちゃがな。ちぃと照れくさいけど、がいに嬉しいもんだっちゃね」
「もう、無理しなくていいのに」
「無理じゃないっちゃよ。これからはが毎年こうやって祝ってくれんさるんだがぁ? のおかげで楽しみが増えて幸せだっちゃわいね」
「なら、良かった」

そう言って目を細めるを見て、ぼんやりと幼い頃にあった家庭にも似た温かさをトットリは覚えたのだった。
ニコリと笑みで返事の代わりとし、トットリが再度スペアリブの攻略に取り掛かったところでまたもやが口をはさんだ。

「ケーキも用意してるから胃袋あけといてよ?」
「ははは、今日はフルコースだっちゃね」

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