HappyBirthday!:April 12
外はとっぷりと日が暮れて、壁にかかる時計も夜と言うよりはすでに深夜に近い時間を示している。団員のほとんどはとっくに退社している中、ほかに誰もいない職場の一角でひたすらにパソコンと向かう女の姿がそこにあった。無表情でキーボードを叩き、文字を目で追う姿はまるでテクストを排出するだけのデバイス。自分の真上にある蛍光灯だけを付けた薄暗い部屋の中で点滅する周辺機器のランプが彼女と同調するように光っていた。
「?」
そんなしん、とした空間に、ガラリと無遠慮なドアの音を響かせ入って来たのはティラミスだった。の姿を見つけると、彼は驚いたように声を上げた。
「びっくりした、こんな時間までなにやってんですか」
「あーティラミス。明日作戦会議で使う資料作ってるの」
最近は比較的情勢が落ち着いていて、仕事も追われるほど多くはない。ティラミスの不審そうな視線を受けては苦笑いを浮かべた。
「資料任せた部下が今日風邪で早退しちゃったのよ。だから急いで代わりに作ってるんだけど……何とか終わりそうなとこ。ティラミスこそどうしたの?」
「いえ、少し用があったので」
そういってティラミスは自分のデスクへと歩み寄った。
「なんか忘れ物?」
「ええ、まあそんな感じです」
ふーん、と覇気の無い返事を口にしたはまた煌々と光るディスプレイに向き直った。先ほどティラミスに言った通り、埋めるべき空白はあと少し。首をぐるりと回すとはもう一度キーボードに手を置いた。
「はぁー終わった……」
「お疲れ様」
「げ!ティラミスまだいたの?!」
パソコンと共に張りつめた気持ちをすっかりシャットダウンしたは、突如降って湧いた声にできたてほやほやの資料を床に落としてしまった。
目をまんまるにして驚いた表情のと対照的に、驚かれた男は表情を崩すことなくおもむろに資料を拾い、キャビネットから取り出した透明なクリアファイルに挟んだ。
「ありがと。あーびっくりした。忘れ物、まだ捜してるの?」
「いや、見つかったので今から帰ります」
そう言っていつのまにかのバッグを携えたティラミスは、ファイルをするりと中へ滑り込ますとそのまま出口へと歩み寄った。
「あなたも帰るんでしょ。送っていきます」
しかしティラミスが廊下に出てもは返事もなく立ち尽くしたまま。
ティラミスは少し苛立ったような声でもう一度を呼んだ。
「、帰らないんですか?」
「ティラミス、もしかして」
「なんですか」
「忘れ物って私?帰るの待っててくれたの?」
「……そう言うことは分かってても口に出して言わないものです」
ティラミスは忘れ物をもう片方の手にひっつかむと女子寮までの短い短い道のりを届けに行ったのだった。
- 「真夜中のザナドゥ」
- 2011/01/13→2019/10/24加筆修正
- 窓を閉じてお帰りください