HappyBirthday!:December 24 

、お別れだ」

自然の恵みで創られたこの島には似合わない、冷たく光る鉄の扉の前で告げられたパプワくんの言葉はあまりにも残酷だった。

「どうして?今シンタロー達みんなが頑張って島を守ろうとしてるのに。みんながどこかに行っちゃうことなんて…そんなこと誰も望んでないのに!」

「パプワくん、嫌だよ」

だっておかしいじゃないか。
元々この島に住んでいたパプワくん達が立ち退いて全てが解決するなんて。
何の罪もない者が何もかも罰を被るなんて。
なのにパプワくんは私達よそ者を責めるわけでもなく自分たちの運命に悲観するわけでもなく、いつもとおんなじすまし顔で私を呼んだ。

はシンタローのところに戻れ」
「え?」
はシンタローが好きなんだろ?」

事実、シンタローとは付き合っているけれど唐突に振られた話題に少し顔が熱くなる。
しかしパプワくんがなぜ今そんな事を言うのか、言葉の意図はつかめない。

「シンタローものことが好きだぞ。まあぼくに比べたらまだまだ修行が足りんがシンタローも十分強いやつだからシンタローが必ずお前を守ってくれる。
だから、はぼくがいなくても大丈夫だ」

パプワくんはそう言い終わると私に背を向けた。

「パプワくん!」
「来るな」

そのしぐさにパプワくんの気持ちが全てつまっているようだった。もうパプワくんの意思は固くて誰にも止められない。それなら私が言うべき言葉は『行かないで』ではない。

「また会えるよね……ううん、絶対会いに行くから」

すると振りかえったパプワくんの手が私の腕をそっと引っ張った。引かれるままにその場にしゃがむとパプワくんと私の視線が同じ高さになる。パプワくんは真正面から限りなく純粋な瞳、視線で私を射抜くと涙でぐちゃぐちゃになった頬にそっと手を差し伸べてくれた。
そしてその手が離れるとほんの一瞬。
まるで天使の羽根がかすめるような別の温かい感触がふわりと頬に舞い降りた。パプワくんの顔が離れると共に花と海と太陽の匂いが私の脳天を突き刺す。

「待ってるぞ」

パプワくんは笑っていた。


大きな箱舟はふわりと地面を離れどんどん宙に浮き始める。私はそれを最後まで見送ることはせず、すぐにシンタローの元へと走り出した。
だって、パプワくんが行けって言ったから。
せっかくぬぐってもらった頬はまた濡れてしまっているけれど、彼の言葉が、今までの記憶が、思い出が、右頬に押しあてられた唇の感触が、私を前へと突き動かすのだった。

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