HappyBirthday!:December 12 

すでに日が落ちて随分と経った頃、約束していた時間を30分と少し過ぎて、マジックはの家の呼び鈴を押した。ドアを開けたは待たされ怒ったそぶりはおくびにも出さずウィノナライダーの様な艶やかな笑みを浮かべて彼を出迎えた。

「お誕生日おめでとう、マジック」

用意していた言葉と共に吐き出された息は死にたいくらいに真っ白だと、は思った。

「遅れて本当にすまない。シンタローのことでどうしても手放せない用事ができてしまってね」

中に招き入れられるとマジックは眉を八の字に下げて謝罪を口にした。マジックが脱いだ外套を受け取り、ハンガーに掛けながら は軽く首を横に振って意思表示をする。 とて彼がどんな立場でどのような人物であるかはよくよく熟知しているしもう『私と仕事、どっちが大事なの』などと聞くほど子供でもない。
自分が付き合っている男はそういう身の上の人だから仕方がないのだ。
誰が悪いわけではない。
そのことをは理性と感情で理解し、納得していた。

「そう。シンタローくんのことはもう大丈夫なの?」
「ああもちろんさ。そうだ聞いてくれるかい?今日もシンタローったら……」
「はーいはいはい。手短に頼むわね。マジックがシンタローくんの話するととっても長いんだから。スープが冷めても温め直してあげないわよ?」
「それは困ったな」

からかうようにが口にするとマジックは少し驚いたような表情を見せてからふっと口元を緩めた。

「君には特にシンタローのことを知ってもらいたいんだよ、。いずれ君の息子になるだろうからね」
「そうだと嬉しいわね」

カラリ、とシャンパンを冷やしていた氷が音を立てた。それを皮切りにが用意したディナーの席へと促すがマジックはまだテーブルに着かず、色気のある太い指をの頬に当てひと撫ですると更に言葉を続けた。

「試験管の中で育ったわたしには母親というものがどうなのか分からないがきっと素晴らしいものなんだろう。君を見ていてそう思うんだ。わたしが一生かけても与えきれない『母性』を女性は、君は持っている。わたしはね、シンタローにはそれを与えてやりたいんだ」
「あら、マジックはシンタローくんのために私を愛するの?」

は首をかしげた。

「口を開けばシンタローシンタローって。……ふふ、妬けちゃうわ」
「失礼」

わざと演技らしくおどけてみせるが半分はの本心であった。
仕事の関係上、会える日に会えなくなったり時間がずれたりするのは仕方がない。しかし、そう多くない二人きりの時間は……それが溺愛している息子の話だとしても長くは続けないでほしい。目の前の自分を感じていてほしいのだ。浅ましい嫉妬だとは思う。だから逃げ道を残すように精一杯の抗いとしてつんと拗ねたようにわざとらしく口を尖らせて見せるのだった。
マジックは知ってか知らずかそっとの腰を引き寄せ、額に小さくキスを落とした。

「君は本当に可愛い人だ。本当はわたしなんだろうな、君を一番求めているのは」

抱いた腰を更に引き寄せ、マジックはをきつく抱きしめた。

数奇な運命を辿る青の一族。女のおらぬ一族の中でその宿命を誰よりも背負って生きていた彼自身が誰よりも女性の、『母』の存在を追い求めていたのかもしれない。
くしゃりとマジックの髪を掻き梳くと上品なオーデコロンの香りがの鼻をくすぐる。腕を伸ばすと広い背中にはしとやかな筋肉が隆々と付き、耳元で漏れる声は低い。しかし、それら全てが大人の男性を意識させるにも関わらずなぜかには、彼が弱弱しい幼子のように思えてならなかった。

「この瞳も、軍服も、君がいるから背負っていける。ありがとう、わたしの大切な

を抱くマジックの腕はいつまでも解かれることはなく、 はずっと彼の胸に寄り添っていた。

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