HappyBirthday!:December 24 

「そろそろおやすみの時間ですよ、コタロー様」
「やだ!もっとと遊びたい!」

夕飯を持ってきたと昨日約束したゲームで遊んでいたら、キリが良くなったところでがいつものこの言葉を口にした。

「だーめです。子供は寝る時間ですよ?」
「続きやりたいよう~!はぼくの部下なんでしょ?言うこと聞いてよ!」

は自分のことを『コタロー様の部下』って言ってるけど、部屋から出れないぼくに食事を持ってきてくれたり本を読んでくれたり一緒に遊んだりしてくれるお姉ちゃんのような人だ。現に今もこうやって一緒にゲームをしている。 が休みの時は別の人が来るんだけど態度がつんけんしてて嫌い。

「そうして差し上げたいのは山々ですが、総帥からコタロー様の面倒をきっちり見るよう仰せつかってるんです。さ、ベッドにお入りくださいませ」
「……パパなんかの言うことなんて聞かなくていいのに」

から出てきたこの単語を聞いて一気に気分が悪くなった。

ぼくはパパが嫌いだ。パパだけじゃない。ここにいるみんなが大嫌い。ぼくがここに閉じ込められてることを知っているくせに誰も助けようとしてくれない。いつだって優しくしてくれるのはお兄ちゃんとだけだ。

「ゲームの続きはまた明日しましょう?」
「でも、あとちょっとだけ!」
「いけません。また明日来ますから、ね。おやすみなさい」
……帰っちゃいやだ!!」

ゲームの続きがやりたい、なんて半分本当で半分はうそ。とにかく、今日だけはどうしても嫌だったんだ。部屋を出ようとドアへ近づくを力の限り引っ張って抵抗するとは眉毛をハの字に下げてなんだか悲しそうな顔をした。

「分かりました、こうしましょう。ゲームはもう駄目です。その代わりコタロー様がキチンとベッドに入っていただいたら私がもうちょっとだけお話しをいたしましょう。いかがですか?」
「うん!」

ベッドに入るとは手を握って今日あった出来事を話してくれた。たまに駄々をこねるとこうやってぼくが寝付くまで傍にいてくれる。
だけどそれはあくまで『寝るまで』だけだ。朝、目が覚めるとは帰ってしまっていて誰もいない。いつものこの広い部屋にぼくは一人取り残される。それが寂しくてしかたがない。少しでも長く目を開けていようと頑張るけれどすぐに眠気が襲ってきて意識はベッドの中へと沈んでいった。


今日、が来る前のことだ。
突然起こった大きな音を耳にして窓を押し開けると冬の冷たく乾いた空気が暖かな部屋へと一気に入りこむ。ぶるりと体を震わせて外を覗けばコンクリートで固められた灰色の空間にポツリと見える真っ赤な人影。プロペラが風を切るヘリコプターへと今まさに乗らんとする赤い影の正体こそ自分をここに押し込めている張本人、パパだ。やがてヘリコプターはパパを乗せてどこかの仕事先へ飛んで行った。

明日が何の日か覚えているだろうか?
覚えていたとしてもこんな時だってやっぱり仕事に行ってしまうからパパはきっとぼくのことが嫌いで、仕事の方が大事なんだろう。
は?
今日が23日で、明日は24日。明日が何の日か知っている?


窓から差し込む光が朝の到来を告げる。まぶたを開けると真っ白な天井がぼくの目に映る。ああ、また朝が来たのか。そう思って体を起こそうとすると何か体に違和感を感じた。
手だ。
温かい感触がぼくの手を包んでいる。ハッとして体を起こすとぼくは目を疑った。ベッドの横にはが僕の手を握りながら静かに寝息を立てていたんだ。 が帰っていない!これは誕生日プレゼント?それともクリスマスプレゼント?どちらでもいい、が今傍にいる事実は紛れもない真実なんだ。



そっと声をかけてみると軽く身じろいでの大きな瞳がぼんやりと僕を映す。一旦間を置いてからの口がゆっくりと言葉を紡いだ。

「コタロー様、お誕生日おめでとうございます」
「…~!!」

たまらなくなっての胸に飛び込むとはぼくの一番大好きな笑顔を浮かべて抱きしめてくれた。

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