HappyBirthday!:November 12 

ガンマ団から割り当てられたコージの部屋は角部屋で他の部屋にはない南向きの大きな窓が付いている。その窓の前でコージと世間話をしながらごろごろと日光浴をしたりトランプやゲームをしたりして過ごすのが私のお気に入りの休日の過ごし方だ。ここのところ仕事が忙しくなかなか会えなかったけど、今日はやっと二人の休暇が重なり久しぶりにコージの部屋へ足を運ぶことが出来た。

「コージ、私」
「んあー、かぁ。今開けるけぇ」

大きな容器にたっぷり詰め込んだお昼ごはんのおかずを携え、約束していた時間に彼の部屋の呼びベルを鳴らすとインターホンからは気だるそうな声が返ってくる。もしかすると寝ていたのだろうか、そう思っていると開いたドアからは案の定欠伸を噛み殺したスウェット姿のコージが出てきて、私は先ほどの考えが当たっていた事を知る。秘書課の私に一般課(戦闘員)のことは分からないけれど、近頃は前にも増してシンタロー総帥の人づかいが荒くなったと伊達衆の皆さんが食堂でぶつくさ言っているところをよく見かけるようになったので体力バカのコージだって相当疲れているんだと思う。ごめん、と一言謝ったら、コージも私の思ってることに気付いたようで照れくさそうに寝ぐせだらけの頭を掻いた。
部屋の中に入ってからのコージは見てるだけで清々しくなるような食べっぷりで、どんぶりに盛られた白米と、私の持ってきたおかずを着実にやっつけている。私はというとコージ愛用のスライレーだかスライルーだかいうもじゃもじゃのドラゴンのクッションを頭とお腹の二つに敷く、いつものスタイルで窓際にごろりと寝そべっていた。
しかし私はすぐにむくりと体を起こした。
陽だまりに抱かれているようなぽかぽかとした暖かさを期待して横になったが、前に来た時まであった陽気はもはや感じられなかったのだ。代わりにそこは、ガラス越しにひんやりとした空気を宿していて私の体は気がつかないうちにうっすらと冷たくなっていた。

「うー、なんか寒い」
「そりゃもう11月じゃけんの」

窓から離れてコージに近づくと、コージは箸を置いて手を広げてくれる。私は嬉しくなって胸の中に飛び込むと、コージは私をすぽっと腕の中に収めて何事もなかったかのようにまたごはんを食べだした。

そんなにごはんが大事か!

ムカっときてコージを睨みつけるが、そんな私を見たコージは何にも分かっちゃいなくてぬしも食うか?って豚肉をつまんだ箸を私の口元に持ってきた。コージのノーテンキなしぐさのせいで更に胃のあたりがぐつぐつとしてきた私は顔を背けて拒否を表した。

「いらない。私お肉じゃなくて甘くてあったかいおやつが欲しいの!アッサムのミルクティーにホットカスタードパイとかそういうのが食べたい!」
「そがぁに洒落たもん、わしん家にはないぞ?」
「分かってるよ。どーっせコージの家にはプロテインのミルクシェイクに広島焼きが関の山でしょー?期待してないし」

フン、と鼻を鳴らしてドラゴンクッションのヒゲを指でもてあそぶとここでやっと気付いたのかコージの眉間が疑問をはらんで皺を作った。

、なに怒っちょるんじゃ?」
「怒ってなんかないし」
「うそつけ。だったらおまぁのそのむくれ顔はなんじゃ」
「むくれてないもん。失礼ね」
「まったく、しょうのないやつじゃのぅ」

大きな山がのっそりと動いたかと思うと、私はコージの膝の上から下ろされた。そして突然奥の部屋へとコージはひっこんでしまった。慌てて私は後を追いかける。

「何してるの?」
「アッサムかどうかは知らんがコンビニに行けばミルクティーくらい売っちょるじゃろ。買ってきちゃるけぇは待っちょり」

コージは私が見ているのをお構いなしにぽいぽいと着ていたスウェットを脱ぎ散らかして、ヤクザが体に彫っているイレズミみたいな鯉の柄がプリントされてるトランクスの上にジーンズを穿き始めた。普段と違って少し重そうに体を動かしている様子を見るとやはりコージの疲れがたまっているのは明らかだった。

「待ってコージ、いいよ!ちょっと言ってみただけだから!」
「遠慮せんでええ」
「じゃ、じゃあ私も行く」

ガンマ団の寮から最寄りのコンビニへはコージの足でもなんだかんだと歩いて10分くらいはかかる。その間コージのいない部屋で一人、無駄に過ごすのは嫌だ。同じガンマ団に勤めているとはいえ部署が違うし、ただでさえコージは遠征ばっかり赴いていて、余計に顔を合わせることが少ないからたった10分のことでも、私にとってはとても大切で貴重な時間なのだ。
離れたく、ない。

「すぐそこじゃけぇええって。ぬしが好きなのは『正午の紅茶』シリーズじゃったな」
「いいから!行くってば!」

思わず大声で叫んでしまった。それと共にコージは目を丸くして黙ってしまう。少しの間テレビの帯電の音が聞こえるくらいに静かな時間が二人の間に流れたが、すぐに静まり返った空気を切り裂き、コージは大声で笑い出した。

「わはは、出おった」
「何がよ」
「『さみしがり』」
「ちょっとコー…」
「そがぁな事言うんはワシの前だけにせぇの」

私の反論を遮って、彼の大きな手が私の頭に乗せられた。それを振り払おうとすると不意にコージと目が合う。コージは目を細めて私を見つめ返したが、その表情は今までに見た事のないような優しい、本当に優しい大人の笑顔で私はびっくりして言葉が出なかった。

「ほれ!」
「わっ!」

コージは掛け声とともに私に向かって何かを投げた。パッと目をつぶって、開いた時にはもういつものにっかりとした子供みたいな笑い顔に戻っていた。

「何これ、…マフラー?」
「あったかいもん買いに行くのに寒い思いしちょったら本末転倒じゃけんのう」

受け取ったマフラーからは染みついたコージの匂いがふわりと香る。首に巻いて顔を埋めると、もうそれだけで胸の奥が淹れたての極上ミルクティーで満たされるような気分になった。

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