HappyBirthday!:May 12
「、そこの資料の校正を頼む」
「はい、キンタローさん」
「午後から支部の視察に行く、ついてこい」
「待って下さいキンタローさんっ!」
「帰ったらこの前の試作品のテストだ。、準備も忘れるなよ」
「わ、分かりましたキンタローさんッ!!」
「キンタロー様の新手のイジメはいつまで続くんでしょうかね?」
「イジメ……ではないみたいなんだけどね、高松ぅ」
キンタローがの名を高らかに呼ぶ声をBGMにしてグンマと高松は部屋の隅でひそひそと顔を寄せ合っていた。
いつからだろうか。研修生として開発課へ来ているへ突如キンタローはあらゆる仕事……時には研修生の域を超えるようなものまで任せるようになった。あまりににばかり仕事が振られるものだから、周りからは「がキンタローにとんでもない無礼をした」だの「は何か”持って”いてキンタローはその素質を見抜いた」だの様々な噂が飛び交ったが、キンタローがを嫌っているそぶりも見えず、また、が飛びぬけて仕事ができるというわけでもなかったので結局真相はいまだ闇の中である。
とにもかくにもそれぞれが思い思いに研究を進める静かなデスク内をばたばたと駆けずり回るの姿は開発課の名物になりつつあるのだった。
「キンタローさん、校正チェック出来ました!」
「そうか。ではこの件に関してシンタローの方針を聞こう。行くぞ」
「えっ?(私も行くの?!)は、はいっ」
キンタローと、またも慌てて彼の後を追うが出て行くのを高松、グンマをはじめ開発課の面々は何とも言えない気持ちで見送っていた。
要塞のごとく高くそびえるガンマ団本部の一番上にある総帥室。そこへ行くための長い、長いエレベーターに二人は乗り込んだ。機動音だけがいやに大きく聞こえるしん、と静まり返る小さな箱の中。は自分より半歩前に立つキンタローの横顔を見ながら思いを張り巡らせていた。
初めは研修生の立場から色々な仕事に触れさせてくれているのだと思った。
少しして自分がしてはいけない失態を犯した、もしくは単に虐められているのだと思った。
しかし。
「どうした」
「え?」
「表情が暗い。体調が悪いなら無理せず言っていいんだぞ?」
今は理由がさっぱり分からないのだ。
「そうではなくて」
「なんだ?」
「キンタロー博士はなぜ私にばかり手伝いを頼まれるのかと思いまして」
金髪がさらりと動き、端正な横顔がの方を向いた。どきりとしたは慌てて言葉を付け足した。
「あっ、あの、決して仕事が嫌なのではなくて!ただ……他にもっと優秀な非常勤の方もいらっしゃるのにどうして私なんかに頼むのかと思いまして。ほら、今でも書類運びすら出来ていないですし」
が視線を下げるとキンタローの腕には重たそうな資料の束。そしての手には薄っぺらいファイルが3枚だけ。
「お前より腕力がある俺が多く資料を運ぶのは当然のことだろう」
「でもほとんどキンタローさんが持ってたら今私がキンタローさんに付いている意味ないですよね」
「確かに必然性から言うとそうかもしれんな」
「じゃあどうして」
キンタローは低く唸って考えるそぶりを見せると、一言。
「俺にもよく分からん」
とだけ答えた。
「えぇ?」
「分からんがと一緒に仕事をするのは他の奴とより楽しい。それにお前といると何故だか仕事が捗るんだ。駄目か?」
「駄目か、って……」
「何だ?」
エレベーターは止まり、「リン」と恋を告げるベルが鳴り響いた。
- 「ラヴ・イン・エレベーター」
- 2011/01/13→2019/10/24加筆修正
- 窓を閉じてお帰りください