HappyBirthday!:February 14 

!酒だ酒!酒持ってこい!!」
「わーかってますってば。今出しますから」
「さっさとしやがれ!今日の主役は俺様だーッ!!」

"今日"も何もその横暴な態度はいつもじゃないか。そう言ってやりたい気持ちをぐっと抑え、私はキッチンまでお酒を取りに走った。

今日は隊長の誕生日。ということで、マーカー・ロッド・Gと画策してささやかな祝いの宴を開いている最中だった。まあ私たちは例のごとく飛行艇の中で過ごしているからいつもよりちょっと豪華なディナーと、いつもよりちょっと豪華なお酒を用意しただけなのだが隊長をもてなさなきゃいけない3人までもが飲んで騒いで(Gは泣いてるけど)、艦内は大変なことになっている。楽しそうなのは結構だけど結局めんどくさい事、楽しくない事はすべて私に回ってくるのだ。

「どうぞ、隊長」
「おー」

持ってきたお酒を隊長に手渡すと、隊長はグラスにも開けずにそのままボトルへと口をつけた。私は隣に座って隊長の揺れ動く喉仏を盗み見る。彼の双子の弟とは対照的な筋肉質の体に野性的な鋭い目つき。黄金色の髪はワイルドに伸びた風貌通り固い質感を伴っている。豪快に酒を流し込む姿は月並みな言葉だが、まるで野生のライオンのようだと思う。

私は隊長が好きだ。

親子ほどに歳の離れた隊長が。
もちろん隊長が私のような小娘に恋愛感情なんて抱いてないことは分かっているしこれから先もそんな風にはならないことも分かっている。隊長と私は上司と部下なのだ、これからも、この先も。決定的な証拠がある訳じゃないが惚れた者の勘、とでもいうのだろうか。
お酒を取りに行く間、こっそり部屋から持ち出した小さな包み紙を隊長から死角になるように握りしめた。
変に動揺して気持ちがばれてはいけない。
落ち着いて、普段と同じように。
ゆっくりと息をして私は口を開いた。

「隊長、これあげます」
「なんだこれ」
「今日、一応バレンタインですから」

私の手から受け取った隊長は中に入っているものを見て大きく笑った。朝から念入りにセットした髪が隊長の手のひらによって無遠慮にかき乱される。

「チョコ!ったく、オメーは他に渡すやついねェのかよ!」
「……隊長の、せいです」

つい口からこぼれ落ちた言葉にハッとして、思わず口を押さえると隊長が怪訝そうな顔をした。

「俺が何だって?」

青い獅子の目が私を覗き込むとそれだけで体中の血が逆流するような気になる。心中を悟られぬように下を向いたら、今度は言葉の代わりに涙が出そうになった。隊長のせいで他の男なんて目に入らないんです、と。そう言えたらどれだけ楽だろうか。

「隊長が」

好き。

「隊長が毎日毎日コキ使うから全っ然出会いがないんですー!たまにはステキな彼氏が出来るよう艦から降ろしてください!!」
「ハッ、人のせいにしてんじゃねェー。だいたいオメェが艦を降りたらだれがメシ作んだ!誰が降ろすかよ!」

こんなにも近くにいるのに隊長と私の心は遠すぎて、私は傷つくこともできない。隊長は私の心臓そのもので私は静脈のように、ただ彼の元へ戻ってゆくだけ。

■CLOSE■