HappyBirthday!:May 24
「私を開発課に異動させてください!」
「ダメです」
時計の針は正午を少し過ぎた時間を指している。食事へ、休憩へと人々が行き交うガンマ団本部の中、地下に続くゲートの入口では二人の男女がじりじりと睨み合っていた。
「ドクター高松、あなたは医事課の人間でしょう?あなたに断られるいわれはありません」
「だまらっしゃい。開発課にいらっしゃるキンタロー様とグンマ様をお守りするのがこの高松の務め。あなたのような見るからに無学なアホ面人間、お二人の邪魔になる前につまみ出すのは当然のことです!」
「あーちゃん~、高松ぅ~!どうしたの?怖い顔しちゃってさ」
そんなところにちょうど開発課のゲートから出てきたグンマは、二人の緊迫した雰囲気を感じ取ることもなくいつもと同じハニースマイルを浮かべて駆け寄った。はグンマの声が聞こえるなり高松が鼻血を噴くよりも早く高松を押しのけてグンマの前へと飛び出した。
「グンマくん、私を開発課に入れて!」
「ちょっとアンタ!グンマ様を馴れ馴れしく呼ばないで下さい!」
「開発課の見学したいの?別にいいよ~!」
「そうじゃなくって!」
「え?え?どういうこと?」
「……つまり、ちゃんは一般課から開発課に異動したいってことなんだね」
「うん」
開発課の応接室にて話すことしばし。
ようやく落ち着きを取り戻し、の本意がグンマにも伝わったようだった。
「お願い、グンマくん」
「大体何故一般課のが急に開発課へ移りたいなどと」
「ドクターには関係ありません」
「いちいちつっかかってきますねー。私に」
「でも僕も知りたいなぁー。開発課への志望理由!」
「え、その……」
はグンマをちらりと見た。グンマは頭にハテナマークを浮かべながら小首をかしげるとぱっと顔を赤くしたはふいとグンマから視線を外した。
「な、内緒です」
「内緒かぁ」
グンマは眉をハの字にして笑った。
「僕さ」
が外した視線ともう一度合わせるように歩み寄ったグンマは の隣にそっと腰をかがめた。
「もしちゃんが一般課でいじめられてるとか、嫌なことがあって苦しんでて、それが理由でこっちへ来たいって思ってるんだったら開発課に逃げるんじゃなくて、それを解消したいって思うし
僕、力になりたいんだ」
「違う、そういうのじゃなくって……」
とグンマの視線がようやくかち合う。グンマの大きな瞳は優しげにを見つめるが、同時に
強い力をも秘めているようにキラリと輝いていた。それに気づいたはぎゅっと目をつぶり大きく首を横に揺らした。
沈黙がさっとその場にはびこり、不気味に静かな空間が支配する。
「グンマくん、好きなの」
ずいぶんと時間をかけ、絞り出された一言はグンマと高松の耳に入るのに十分だった。二人は大きく目を見開かれ、グンマにいたってはすぐに顔へ熱が集まるのを感じずにはいられなかった。
「ハァ?!黙って聞いていれば勝手なことばか「高松うるさい!」
「だからもっと近くで見たい。それだけのわがままなの」
「ちゃん……!」
「私、グンマくんの、
グンマくんの格納庫にあったアヒル戦艦が大好き!!」
「…………あ…ひる?」
体中で反響する心臓の音に負けじと次の言葉を選んでいたグンマはあっというまにその場へと凍りついた。
「そう!この前偶然見ちゃったの、あのアヒル戦艦を。それから一目惚れしちゃって……はぁ、今思い出してもドキドキしちゃう!私、もっともっとアヒル様に携われる仕事がしたい!だから、グンマくんの部下にしてください!」
「まったく、語弊を生む言い方して。しかし変わり者でしたがそれに救われたというかなんというか。ね、グンマ様」
「う、うん」
「どうしました?気の浮かない顔して」
「別に!なんでもないよぉー!」
ほんの少しだけ胸をよぎった空虚はなんだろうか。グンマはまだ実態の掴めぬ違和感をほのかに感じながらキンタローにの異動願いを出しに行くのだった。
- 「アモルのしっぽ」
- 2011/01/13→2019/10/24加筆修正
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