【Between the game machine:M】
みんなが隠したタマゴをうろうろ探していると、ゲームの筐体が並んでいる隙間に見慣れないオレンジ色を捉えた。近づくとそれは流線形をかたどっていて、腕を滑り込ませて手に取ってみればやはり。お目当てのタマゴ型カプセルだった。
「見つけたっ!」
「あーっ!それ、オイラが隠したタマゴだー!」
手に入れたカプセルを高らかに掲げると、陽気な声と共にマイキーがこちらへ駆け寄ってきた。
「えへへー、オイラのプレゼントはちゃんがもらってくれるんだねー、超ラッキーかも!」
「なになに?中開けていい?」
「もっちろん!」
今にも待ちきれないといったマイキーの様子を見ると、俄然中身への期待が高まってしまう。私の問いにマイキーがぶんぶんと首を縦に振ったのを見てからカプセルを開くと、中には小さな紙きれが一枚くるくると丸められて入っていた。横からにゅっと伸びてきた緑色の指が先にその紙を拾い、私に向けて広げると、しばらく見ることのなかった懐かしいキャラクターがそこには描かれていた。
「パンパカパーン!オイラからのプレゼントは、『cawabanga carl』1日出張券~!」
『cawabanga
carl』とは以前にマイキーがやっていた着ぐるみ出張サービスだ。週末になるとデフォルメされた大きなカメの着ぐるみをかぶってイベント事に赴いていたのが懐かしい。
「わー!久しぶりに見た!」
「レオが戻ってきてからは辞めちゃったんたけど、このチケットを持ってる人にだけ1日限定復活~!はいどうぞ。ちゃんの好きな時に使ってね?いつでも行くから!」
「うん、ありがとう」
「あーあ、ちゃんが見つけてくれるなら年パスにしてけばよかったなぁ~なんちゃって!」
チケットを受け取ると、マイキーが嬉しそうにぴょんと抱きついてきた。私より少し背の低いマイキーの頭を撫でるとすりすりとくっついてくる様子がネコみたいでとってもかわいい。
「マイキー!!」
そんな時に突然ぶつけられた大声。
飛んできた先を向くと、いつもに増して眉間のシワを深く刻んだラフがズカズカと早足で近寄ってきた。マイキーの首根っこあたりの甲羅を掴んで私から引き剥がすとマイキーもさっきの笑顔から一転、ムッとした表情でラフに詰め寄った。
「いたたー……もう!いきなりなにするんだよラフー!」
「あぁ?それはこっちのセリフだ!てめーこそに何してやがんだ!」
「ちゃんがオイラの隠したタマゴを見つけてくれたからありがとーって言ってただけだしぃ」
「ハッ、礼を言うのにあんなにひっつく必要がどこにある?」
徐々に音量が増す二人の声に気がついて、別の場所でエッグハント中のレオとドニーもまばらに顔を上げたが、こんな言い合いなんて日常茶飯事。特にこちらへ様子を見に来るでもなくああ、またか、とでも言った風にすぐにタマゴ探しへ戻っていった。
「ただのちょっとしたスキンシップじゃん!なにさ、オイラがちゃんをひとりじめしてるからってシットしないでよね!」
「しっ……誰が!!」
「ホントはうらやましーんでしょ。これでオイラは確実に1回、みんなより多くちゃんに会えるわけだからね!」
相変わらずおちゃらけた様子のマイキーは今日も絶好調の様子である。よくもまあ次から次へと冗談が出てくるものだと聞いてて感心するくらいに。反対に随分とマイキーに煽られたラフはすでに鬼の形相だ。
「んなわけねぇだろ!
だいたい見てみりゃテキトーなもん入れやがって、誰もいらねーだろこんなもん!」
私もレオやドニーと同じく横でやりとりを静観していたが、私の持つチケットを一瞥してラフがそう叫んだ時、マイキーはさっきまでの笑顔を崩してちょっと悲しそうな表情を見せた。いつも怒ったり茶化したりすることはあっても今みたいに傷ついたような顔はしないのに。
「ラフちょっと」
「なんだよ、俺様は嫉妬なんかしてねぇっ!」
「わ、分かってるわよ……」
ラフに一言物申すつもりで声をかけたが、マイキーに向けた勢いをそのまま私にも向かって声を荒げ始めた。ヒートアップしているラフの様子は取りつく島もない。
「んもーほっといてよラーフーっ!ちゃんあっちいこ!」
ハッとマイキーを見ると、先ほどの憂いた表情は見間違いかと思うほど至極いつも通りの様子だ。ぷくっと頬を膨らませて私の手を取りラフの横を通り過ぎる。ずんずんとラフから離れ、スプリンター先生の部屋を通り過ぎて、端の道場までノンストップで私の手を引く。
「マイキー、どこまでいくの?」
声をかけると無言でピタリと歩が止まった。その横顔はシュンとしぼみ、視線も力なく床へ落ちてしまっている。繋がれた手に力を込めると困ったようにマイキーは笑顔を作った。
「ちゃん、オイラ本当にちゃんと考えて、これならみんな喜ぶと思ってプレゼント選んだんだ」
「うん」
「オイラが行った家の子供達はみーんな喜んでくれてた……だけどラフにはいらないって言われちゃった」
マイキーはあの仕事が本当に大好きで、どうやってクライアントを喜ばせようかといつも一生懸命だった。だからそんな自分が自信を持って作り上げたものを身内に否定されたショックは情熱を注いだ分だけ大きいはず。
「元気出して、マイキー」
私はマイキーのようにすらすらと話せないけど、頭の中をフル回転させて必死に伝えたい思いに当てはまる言葉を探し出す。
「さっきのラフは……売り言葉に買い言葉でつい大げさに言ってしまっただけよ」
マイキーのしょんぼりした顔を見ると私まで悲しくなってしまうから。
「私はこのチケットとっても嬉しい!マイキーが来てくれたら絶対楽しいもの、いつ使おうか迷っちゃうくらいよ。ありがとう」
だってマイキーはぬいぐるみをかぶってないときだって、タートルズになくてはならないムードメーカー。誕生日やハロウィンのイベントはもちろん、なんでもない日だって絶対楽しい気持ちにさせてくれるに違いない。
「本当?」
力のない声が耳に届く。
「ホントよ!疑うならここでお願いする日を決めるわ。そうね、来週の土曜日でお願いできる?」
「ちゃん……」
「約束よ?」
そう言ってマイキーの前に小指を差し出してみる。
『ゆびきりげんまん』で契約を交わすとマイキーの曇った顔がふわりと緩み、いつもの明るさが徐々に蘇る。エッグハントが終わって私が帰る頃にはすっかり本調子に戻っていた。
「じゃ、土曜日待ってるね」
「もちろん!ちゃんがサイッコーに楽しめるデートコースを考えとくからねー!」
「デート?」
「あっ、いや……へへっなんでもなーい!」
別れ際、慌ててごまかすマイキーだが、目の前にいる彼からのお誘いならそれがファンキーな人気者の着ぐるみカメさんからでも、ミケランジェロという1人の男からでも、悪くない。それが『デート』でも。
私は少しだけそんなことを考えた。