/// SPECIAL THANKS! ///
ささやかですがお礼夢をご用意しました。楽しんでいただければ幸いです。
真っ青な空に真っ白な雲が一掴み。真っ赤な太陽から降り注ぐ光は心地よい暖かさ。
外の草木はぐんぐん生い茂って、少し前に植えたベランダのタイムも昨日芽が生えてきた。そんな季節。
「生えてこねえ」
今日はとりわけアイスコーヒーが美味しい気温にも関わらず暑そうなニット帽を被った達也が洗面所からのそのそ戻ってきた。
「どのくらい伸びた?」
「あっ、やめろ!」
浮かない表情で私の隣に腰を下ろした達也がテーブルのお菓子に手を伸ばしたスキに帽子を引き抜くと
「わぁ……」
中から現れたのは思わず声が漏れるほど悲惨な状態の頭部だった。
「だ、だいぶ伸びたねぇ」
達也……というかこの前の試合でセコンドに付いてくれた幕之内くんが苦肉の策で行った減量方法、つまり頭を始めあらゆる毛(武士の情けか眉毛だけは残してくれた)をツルツルにして1gでも体重を落とそうという戦法が功を奏したのか、達也は無事計量をパスし試合に勝つコトが出来たけれど、無理が祟ったようでそれから髪が元に戻らなくなってしまった。
順調に伸びてはいる。でもいかんせん本数が足りないのだ。
「笑いたきゃ笑えよ」
「笑わないよ。減量頑張った結果なんだから」
ニット帽を深く被り直した達也はくたっとテーブルに突っ伏してなにやらぶつぶつ唱え始めた。
「青木も一歩もすぐ生えてきたじゃねえか。どうしてオレだけこんなになるんだよ。もう歳か。ハゲたのか」
鴨川ジムにはすでに頭をツルツルにした経験者がいる。ブロッコマンヘアーを全剃りした青木さん。泰平くんに手を上げた償いで頭を丸めた幕之内くん。確かに二人ともさほど時間がかからず元の髪型に戻ったけれども、無茶な減量で体に負担がかかった達也と彼らじゃワケが違う。
「二人は減量絡んでないでしょ」
「でも5年前ならとっくに生え揃ってるだろうよ」
すっかりクサりモードになった達也のぼやきは止まらない。
「昔に比べて確実に衰えてんだよ。今は体重落ちねえし、体力は減るし」
「元気出してよぉ」
と声をかけたものの自分にも思い当たるフシが無いと言えばウソになる。
「まあ、私も昔に比べて徹夜は出来なくなったなー」
本当はそんなの氷山の一角で、なんとなくそうするもんだと形式的にやっていたスキンケアは今やサボると大惨事だし、高いヒールはしんどくなったなとか食べ過ぎた分しっかり体重増えて減らなくなったなとか……。折る指が片手で足りなくなったあたりで頭が重くなってきた。
「オレたちこうやって、二人で老いていくのかねえ」
両手で頬杖をついた私に、くたくたのまま顔だけこちらに向けた達也が言った。
「笑わないっつったろ」
「ふふ、ゴメンね」
隠しきれなかった笑いに機嫌を損ねた達也はそっぽを向いてしまったけれど、あのね、髪の毛のコトで笑ったんじゃないよ。
「二人で」って、達也が思い描く遠い未来にも私がいるんだと思ったら嬉しくなっただけ。
髪が生えても生えなくても、ボクサーでもお花屋さんでも。ううん、どちらでもなくったって、二人で居られるなら老いていくのも悪くないよね。
「〝老いていく〟まで一緒にいてね」
「……当然、そのつもりだけど」
そう言った彼の表情は窺いしれない。
「YOU AND I」木村達也 2022/05/22~