※本編後
ふと目が覚めると暗闇の中、セミダブルベッドの上は私一人きりになっていた。
ドアの隙間から僅かに漏れる光の向こうがなにやら騒がしい。
床に散らばった下着とLサイズのTシャツに袖を通して、様子を窺うべくそおっとドアノブに手をかける。
「ユージン?」
「げっ」
びくっと肩を震わせこっちを振り向いた表情が引きつっていたのはきっと、手に持っているインスタント麺の袋が原因だろう。
「あーずるい!私もおなかすいた~!」
そばの戸棚から同じパッケージを取り出してコンロの前に立つユージンへ渡したら「太るぞ」と余計な一言と共に沸騰した小鍋へ乾麺が2つ放り込まれた。
午前2時。
渇いた喉をお茶で潤しながらユージンの奮闘ぶりを後ろから観察する。
寝癖がついた髪とタンクトップの背中をきゅっと縮こませ、慣れない手つきで小鍋をつっつくユージン。昼間クーデリアさんの傍らでスーツを着こなす姿とはかけ離れていてなんだか笑いがこみ上げてしまう。
「なー、
。ネギとかねぇの?」
「ないよぉ。いいじゃん麺だけで」
「見栄え悪ぃだろそれじゃ」
誰に出すわけでもない、たかがこんな時間の夜食に見栄えを気にしてどーすんのさ。カッコつけしいめ。
「シノなら『こーゆーのでいーんだよ』って言うと思うけどな」
「ビスケットはせめて野菜ぐらいは乗せろって言うだろうよ」
「んんー、確かにっ」
今でこそ会話に溶け込む仲間の名前。
だけどすんなり話せるようになったのはわりと最近のことだ。
鉄の華を掲げた最後の戦い。オルガの獅電に乗ったユージンの口ぶりは、もう戻ってくる気が無いように私には聞こえた。
きっとユージンは命の使いどころを『ここ』だと決めたんだ。そう覚悟して見送ったから、生きてまた会えた時は本当に、本当に嬉しかった。
だけど同時に『家族』より深く愛する人を亡くした悲しみもすぐそばで横たわっていて。
あの日からずっと、私は誰かが生きていて「嬉しい」と思うことも、「嬉しい」と共にどこか後ろめたい思いを感じることも、どちらも間違いのような、心のどこかで罪の意識を感じながら過ごしてきた。
鉄華団のみんなと暮らした日々はもちろん幸せだった。
今だって幸せだ。それはユージンと2人で過ごす、あのときと違う形の幸せ。
彼の体温と匂いを感じながら眠れる時間を愛しく思うこと。
それは罪じゃない。
去っていった仲間たちのいない日々を寂しく思うこと。
それも、罪じゃない。
だから今を懸命に生きて、時折彼らの名前を口にすることで止まらない時間の流れにみんなを乗せて連れていく。未来へ。
それが命を繋いでくれた彼らに私が出来ることなんだとようやく受け止められるようになった。
「
」
「なぁに?」
「タマゴ。タマゴはあったろ」
どうしてもラーメンに何か乗せたいらしいユージンは冷蔵庫に寄りかかる私へ卵を持ってこいと暗に促してくる。
だから麺だけでいいって言ったじゃん。
ヘンなところにこだわってばっかなのはCGSの制服を着てた時からずっとそう。でも
「私ねぇ、ユージンのそういうとこ嫌いじゃないよ」
「あ?素直に好きって言やあいいだろ」
とかなんとか自分からけしかけたくせに
「好きだよ」
って言ったらユージンはふんと鼻をひくつかせてそっぽを向いてしまった。
「タマゴ!」
「はいはい」
luv for 2
2024/08/29